あなたのために一喜一憂してくれる人がいることはあなたの財産です〜自然療法プログラム・Aくん物語

17歳のAくんが初めて木の花ファミリーを訪れたのは5月9日のことでした。中学2年の頃から不登校ということで、父親と面談を受け、「体がだるく、気力が出ず、不登校どころか、普段の生活にも支障が出ている状態から、生活習慣を改善し、健全な生活を取り戻したい」ということで、その日からケア滞在をスタートさせたのでした。そして、高校復学の見通しが立ち、滞在開始から12週間が経ったとき、卒業を迎えました。

7月31日に行われた卒業コンサートでAくんは、ケア滞在を振り返って以下のように皆に挨拶しました。

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Aくん:
まずここに来てから学んだことは、ただ悲観して、何もしないでいても、何も得しないということです。

次に、自分にしかわからないこともいろいろあるけど、人の言うことを聞くのは大事だということです。

あと、学校はずっと行けるかはまだわからないですけど、割り切って行くというか、まだ行こうという感じではないけど、形として行くのがいいのかなと思っています。

何もしないでいても、何も進まないので、必ず何かをしなくちゃいけないって思います。

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その後、数名のメンバーからAくんに向けてメッセージが贈られた後、Aくんのサポーターを担当していたなかのんから、以下のメッセージが贈られました。

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なかのん:
卒業おめでとうございます。このあとのケア物語にも出てきますが、6週間経っても、基本的な生活態度ができなかったというAくんで、しかもやる気も感じられなかったということで(みんな、笑)・・・

ジイジ:
ある意味、安定していたのです(笑)!

なかのん:
「ここにいる意味があるのかな?」と途中で思ったこともあったのですが、「僕はそれを判断する立場ではないからな」と思い、とりあえず役割に徹していました。そういったAくんが今日卒業を迎えるということで、やはり自分で見える景色はたかが知れていると思いました。そのあと、どのような世界が展開するかはわからないですよね。だから今、Aくんに見えている景色があると思うのですが、それもたかが知れていると思うのです。このあとどのような可能性があるのかはわからないので、その可能性を楽しんでいってください。卒業おめでとうございます。

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この後、なかのんがAくんのケア滞在をまとめた、「Aくんのケア物語」が発表されました。

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Aくんのケア物語

高校生のAくんが初めて木の花ファミリーを訪れたのは5月9日、不登校で昼夜逆転の暮らしを改善するためにお父さんと一緒に訪れました。

「規則正しい生活を送ること」を目標にスタートしたAくんのケア滞在は、本人のペースで進められていきました。作業へ出発する時間になっても丁寧に歯ブラシや水筒を洗い続けていたり、出発直前になって行くか行かないかを迷い始めたりして、人を待たせることが度々ありました。それでも最初の1、2週間は日中作業に出続けていたので、2週間面談の際、新たな目標として「コミュニケーションを大切にするように」ということが伝えられました。

2週間面談の場で、Aくんは自己主張を繰り返していました。そんなAくんに対してジイジからは、「今の状態を改善するためには人の話を聴くことが大切です。自分の考えが今の自分をつくったのですから、自分の考えを変え、社会に適応出来るようになっていく必要があります。」と伝えられました。

その後のAくんは休みがちとなり、半日か数時間キッチンで作業をして、あとは部屋で過ごすことが多くなりました。そして人ともあまり交流をしませんでした。日々の生活の中で出来ないことの理由探しをしていたのです。4週間面談では、そんなAくんにジイジから、「だるくなったのは、出来ないことの理由として必要なのかもしれません。」「自分の日記やなかのんがつけているケア記録を読み、そして面談音源を聴くことで客観的に自分を観るようにしていきましょう。そして自分の姿勢を振り返り、姿勢にメスを入れるように。」と伝えられました。しかし、5週間面談の際もAくんは、「病気であるほうが自分にとって都合がよい」と認めながらも、対人恐怖などの症状を訴えている状態でした。

そして6週間面談の際、ジイジからAくんに「いつも行動しない理由探しをしています。積極的にやらないことを求めています。」「このままだとやる気がないという判断になります。やる気がない人は滞在拒否することになります。滞在拒否される前に自分からやるように。このように6週間が経って、毎回同じテーマを出される人はあなたが初めてです。」と伝えられました。

その後も一向に気持ちが入らず、日記には無駄な思考やきれいごとを書いているAくんに対し、ジイジは、「余計なことは考えず無心になって動くだけです。本当は分かっています。」とコメントし、サポーターからは「こんなことをしていたら絶対に改善しません。親御さんにお金を出して貰ってそれを全部無駄にしています。行動しなければ、何を書いても無駄になります。もっとちゃんと考えたら?」と伝えられました。

その翌日からAくんは、毎日朝から作業に出るようになりました。そして7週間面談の際、ジイジからAくんに「その調子で続けて、自分で良いと思える生活を送るようにしましょう。こちらはあなたの取り組みで一喜一憂しています。あなたがしっかりと取り組むことはこちらの喜びとなります。あなたの1日の送り方が周りの人を喜ばせるのですから、自分の存在が人の喜びとなって、自分自身が誇れるようになるといいですね。みんな応援しています。」と伝えられました。

その後、しっかりと規則正しい生活を送り、人とも積極的に会話をするようになったAくん。8週間面談の際は、ケア卒業の見通しが伝えられました。ですが、Aくんの中に臆病な気持ちが芽生え、翌日の日記には、「まだケアを卒業出来るとは思えない。学校にはまだ行こうと思わないし、行く必要を感じない。」とネガティブな気持ちが綴られていました。そのためケア卒業は一度棚上げとなり、9週間面談では、ジイジからAくんに、「とにかくやる気がない。今もまわりからの評価を自分から否定して、自分で成果が上がらないようにしています。これから1週間様子を見ます。もしこの姿勢が変わらないなら滞在拒否をします。そのことを心して生活するようにしてください。日記も前向きな姿勢を表現するようにしましょう。それは嘘を書くということではなく、自分が思うことが前向きであるようにしていくということです。前向きな気持ちになるように自己コントロールし、そしてその姿勢で日記を書くようにすることを心がけましょう。」と伝えられました。

その後1週間、Aくんはネガティブにならないように心掛けて生活をしました。それを受けて、10週間面談では、9月復学の目標が決まりました。Aくんは自分から「9月」と言ったのですが、決まった途端に「やっぱり短すぎる」と言い出しました。そんなAくんにジイジからは、「余計なことを考えすぎないことです。その姿勢が、今までいろいろなことを台無しにしてきたのです。自分の考えで決めずに、自分の考えを超えて人の提案を取り入れるようにしましょう。『でも』、『けど』と言い訳を言わず、定まらない心も捨てて、スタートするようにしましょう。」と伝えられました。そしてこの日の日記にAくんは、「今日の面談を受けて割り切るしかない、決めるしかないと思った。ジイジが言うように、自分は17歳なのだから学校に行ったほうがいいに決まっている。そろそろまわりの意見を聞くときが来た。周りの指示、提案を聞こう。」と書いていました。

その後、ネガティブな感情と向き合い、それに対処する方法を自分から探求するようになったAくん。やり取りもしっかりしてきたことを受けて、7月31日のケア卒業、その後、9月復学を目指して長期滞在を続けることが決まりました。

11週間面談では、「今の不健康な状態になったことを父親のせいにしていた」と気づきを語るAくん。そんなAくんにジイジから、「出会う出来事は、環境も影響しますが、1番は本人の姿勢の問題です。親も完璧ではありませんし、親との間には意見の違いもあるものです。そういうことを対立や問題ごととして捉えることも出来ますが、それはある意味、困難な状況の中で自分を逞しくしてくれる要素でもあるのです。これからも人生の中ではいろいろなことがあると思いますが、それを生かしポジティブに捉えるように努力することが大切なのです。」と伝えられました。

ネガティブな思いと向き合い、ポジティブに変換することを学び始めたAくん。その歩みが続き、Aくんが幸せになるようみんな応援しています。卒業おめでとうございます。

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それから、Aくんのご両親に毎週Aくんのケア記録と面談音源を送っていた際に、ご両親から返信として送られてきたメール集が皆に紹介されました。

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Aくんのご両親からのメール集

●1週間目の報告に対する返信

1週間経ちましたが、本人はまだどうしたら良いかわからない状態が続いているようですね。

「この状態」、「何も考えられない」というフレーズはここ2年ほどずっと口にしていたものでした。本人は独自の解釈をして、結論付けてしまう傾向が強いところがあります。

幼少期から自分の思考を優先する子で、自分の思考がまとまっていなければ、何も始められず、授業などでの作業も遅れることが多かったようです。他者の考えや振る舞いを参考にするという行動が苦手でした。

また、“後悔する”ということに現在かなりの恐れを持っているようです。不登校から現在までの自分の判断に失敗感が強いのかもしれません。

ジイジさん、なかのんさんを始め、サポートしていただく方々も大変だと思いますが、本人はこの苦しさから脱出したい気持ちでいっぱいですので、まだしばらくよろしくお願いいたします。

詳しいご報告ありがとうございました。焦らず、次週のご報告を待ちたいと思います。

妻ともども、みなさまへの感謝の気持ちでいっぱいです。今後もよろしくお願いいたします。

●2週間目の報告に対する返信

2週間面談のご報告ありがとうございます。

まさに本人にとって重要な局面にさしかかったと感じます。自分のことについて、今まで家族以外から指摘やアドバイスを受けたことはほとんど無く、本人はしばらく消化不良かもしれませんが、徐々に“自分を変える”気持ちになっていって欲しいと思っています。

まだしばらくお世話になると思います。ジイジさん、なかのんさんをはじめ、ファミリーの方々にはたいへん感謝しております。よろしくお願いいたします。

●3週間目の報告に対する返信

3週間面談のケア報告ありがとうございます。

本人が自分の性格について、本気で向き合う時が来たように思いました。つらいけどなんとかしたい、という気持ちを持ち続け、みなさんからのサポートを前向きにとらえてくれることを期待しています。

自分の思考がかなり強く、他者の意見を自分への否定と感じてしまうので、サポートするのもかなり大変ではないかと思います。

日々のサポート、たいへん感謝しております。もうしばらくよろしくお願いいたします。

●4週間目の報告に対する返信

ご報告ありがとうございます。とうとう本人が正さなければいけない核心に来たのではと思います。

幼少期から自分の思考が強い子でしたが、親だけでなく、兄、姉との間でも口論、言い争いが絶えず、自論を通そうとするしつこさに驚き、呆れるほどでした。それでも親としてもっと強く指摘し、言い聞かせる必要があったと感じ始めています。

宿題を出さない、学校や塾に意図的に毎回遅刻する。何度も何度もそれを正すように言っても、「サッカーで疲れてできない」とか「塾は意味がない」など、自分の都合の良い理由ばかりを並べていました。しかし、いくらなんでも、友達の手前、恥ずかしさやカッコ悪さを感じるだろうと期待をしていました。ですが、驚くことに他人にどう思われているかを気にしないのです。

畑への出発時間に姿を見せず、みなさんにご迷惑をかけていることに罪悪感を感じていないこともその性格ゆえで、とても残念に感じています。家族に対してだけでなく、出会ったばかりの人たちに対してもそうなのかと。

自分の言う「この状態」について本人はネットで何度も調べ、この一年間で、高校入学、心療内科、座禅、甲状腺検査、カイロプラクティックを試しました。全て自分から言い出したことです。自分で仮説を立て、実験(体験)をし、何も変わらないとすぐに次の実験を考える繰り返しでした。まるでひとりで研究しているかのようでした。自分の思考だけで行動しているのです。

今回のケアも自分が言い出したことで、規則正しく起床し、太陽の下で農作業を行えば、自分は良くなると仮説を立てて参加したのです。このような仮説はここ数年ずっと本人が言っていたことで、「刑務所や全寮制の学校などに入らなければ、自分は治らない。規則正しい生活は強制されないとできない。」と自分の意志の弱さも認識していたようでした。

今回ジイジさんから「性格の問題」と指摘されたのは必然と感じます。本人の調子の悪さは自分の思考だけがグルグル回り、思ったような結果が出ず、自分で中毒を起こしていることだとわたしは思っています。一度でも他者の意見や考えを取り入れてやってみて、思いのほかうまく行った体験があれば、グンと変わるのではと期待は持っています。

みなさまのケアサポート、本当に感謝しています。言葉にできないほどです。本人がどこまで本気で取り組んでくれるのか、心配ですが、希望も持っています。まだしばらく、よろしくお願いいたします。

●5週間目の報告に対する返信

ケア報告ありがとうございます。

本人がジイジさんの言葉を理解できれば良いのですが、受け答えの様子からは、ピンときていない印象を受けました。

相変わらず他者の反応を気にせず、姿を見せなかったり、短時間の作業でも怠くなってやめてしまう。

私との散歩でも、途中で歩く気力が無くなり、周りの歩行者やクルマを気にせず、しばらくその場に立ちすくんでしまうこともありました。

しかし3年前、私と北海道の山を登っていたころは、生き生きとしていて、早朝もしっかり起き、面倒な準備もでき、ハードな行程もこなしていました。私のほうがきつかったくらいです。

計20余り登山をしましたが、私が誘ったのではなく、毎回本人の意志でした。体力はかなりのものでした。また清流や野生動物が大好きで、シカやヒグマとの遭遇に喜んでいました。

ここ数年「何も考えられない」、「自分が自分のように感じられない」という言葉を繰り返していました。その状態を長い期間放置し過ぎてしまったように思えます。

本人の心理的、体調的不調が、自分の思考から出てきたものであることは、親の目から見ても間違いありません。過去何度もそのような話をしましたが、「性格は関係ない」と全く受け入れてきませんでした。

本人が繰り返し面談の音源を聞き、ジイジさんの言葉に一日でも早く気づいて欲しいと願っています。

ひと月経っても、第一目標の生活習慣改善もできていないことに驚いていますが、本人のこころの変化は必ずやって来ると希望を持っております。

かなり面倒なケースだと思いますが、ファミリーのみなさまに感謝しております。本当にありがとうございます。もうしばらくよろしくお願いいたします。

●6週間目の報告に対する返信

6週間面談のケア報告ありがとうございます。

はじめまして。Aの母です。この度は息子が大変お世話になっております。主人が出張中なので、はじめてメールさせて頂きます。

小さい頃から我が強く、難しい子だとは感じてきましたが、まさかこのような状況になるとは思ってもいませんでした。

いろんな事を試しても良くならず、「ずっとこのままかも」と泣かれることも度々ありました。取り組み方が甘く、みな中途半端に思えて指摘もしましたが、それでも少しは変化がないとおかしいという本人の言葉に、私まで、それもそうかもと思い始めていました。

つらそうにしているのは確かなので、薬で治せるならいっそ、分かり易い病気であってほしいとまで思っていました。

未だに時間を守らず自由に振る舞ったり、みなさんをお待たせしてしまっていることに驚くとともに、申し訳ない思いでいっぱいです。

これまで、いくら言っても直らないAのそのような態度も、成長すればきっと…..と思っているうちにここまできてしまいました。

音源を聴かせていただき、本当にジイジさんの仰る通りだと思います。

親として至らなかったことを反省しながらも、今はみなさんのお力をお借りしたいと思っております。ご迷惑をおかけして申し訳ありませんが、どうぞこれからも宜しくお願いいたします。

●7週間目の報告に対する返信

7週間目のケア報告ありがとうございます。

もしかして、本人に変化の兆しが出てきたのかもしれないと、妻と話をしました。自分の思考がほとんどを占める生活から、他者の喜び、信頼を得る心地よさを感じる生活に変わってくれたら、たいへん素晴らしいことと思います。

本当に面倒な性格でご苦労をお掛けしています。もう少しよろしくお願いいたします。

●8週間目の報告に対する返信

8週間目のケア報告ありがとうございます。

かなり動けるようになったことと、声がしっかりしていることに驚き、大変うれしく感じています。本人は内面は変わっていないと言っていますが、行動が変われば、少しずつ内面も変化するのではないでしょうか。

Aの今後についての妻と私の希望は、高校に復学し、しっかり勉強をし、クラスメイトや先生たちとたくさん話ができる生活を送ることです。欲を言えば、学校だけではなく、バイトもやり、バイト先での仲間もつくれるよう、人との交流に興味を持ち、楽しんでもらいたいです。そうした生活の中から将来目指したいことが見えてくれば、素晴らしいことだと思います。高校卒業が20才でも、この先の人生を考えると、たいしたことはないという気持ちを持って欲しいです(以前本人は遅い卒業でも構わないと言っていましたが)。

もうしばらくであれば良いですが、ファミリーの皆様よろしくお願いいたします。
本当に感謝しております。ありがとうございます。

●9週間目の報告に対する返信

9週目のケア報告ありがとうございます。

Aは自分の心に湧いてきた気持ちを大事にする傾向が非常に強いです。ありのままを大事にするあまり、その気持ちをコントロールしようという発想が欠落しているのでしょうか。本人は正直に言っているつもりですが、それだけなので、他者から見ると改善しようとする意志が感じられません。

自分はこう感じているのだから仕方ないでしょう、と開き直っているように見えます。ずっと家庭内でおこなわれていた会話が、そちらでも続いていると思うとショックです。そのような幼さを容認し続けてしまった私たちも責任を感じています。

「前向きな気持ちを持つこと」とはどういうことか、何故必要なのかを本人がどう整理しているかが問題かと思います。そこが整理できなければ、復学する決心もしないでしょう。しかし今、本人がよく考え、もがいているのであれば、一歩成長できる瞬間かもしれません。

少なくとも自分の性格について、他人からこのようにはっきりと指摘されたことは初めてだと思います。自分を前向きにコントロールして変えていくという気持ちになってくれることを望んでいます。

そちらにお世話になり始めもう二ヶ月が過ぎてしまいました。本人の発する自分の気持ちは相変わらずですが、やろうと思えば体を動かして作業ができたことは大きな自信になったと思います。みなさまの粘り強いサポートのおかげです。大変感謝しております。

次週のご報告がより良いものであればと思います。よろしくお願いいたします。
本当にありがとうございます。

●10週間目の報告に対する返信

ケア報告ありがとうございます。こちらもついに30度を超える暑さになってきました。そちらはもっと暑くて、みなさんの作業もたいへんかと思います。

Aのそちらで8月いっぱい長期滞在をしたいという意向については、妻とも話合いましたが、みなさんがよろしければ、その通りにして良いかと思います。9月復学は親としても望んでいたことなので、ギリギリまでそちらで、自分をコントロールする習慣を身に付けようと思っているのであれば、それはそれで喜ばしいことです。

他人の意見や提案をきくという、苦手だったことができるようになり始めたことは、たいへんうれしいことです。元の性格に逆戻りしないことを強く望みます。

このように前向きな報告をいただき、たいへん有難く思います。本当にファミリーのみなさまのおかげです。もちろん本人の頑張りも素晴らしいと思います。

復学については、早速、学校側と調整を始めたいと思います。では、もうしばらくお世話になります。よろしくお願いいたします。

●11週目の報告に対する返信

11週目のケア報告ありがとうございます。

Aの変身ぶりに正直驚いています。そちらでの体験を通じて変化が現れたようですが、それこそ本人の本望だったので、今まで感じたことのない充実感も感じているかと思います。本当にみなさまのおかげで、感謝しきれないほどです。ありがとうございます。

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最後に、ジイジからAくんにメッセージが贈られました。

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ジイジからのメッセージ

先程、Aくんからケア滞在を振り返っての挨拶をもらったのですが、まだ心細いですね。この自然療法プログラムにおいては常にそうなのですが、ここで疑似体験をして、その延長に完璧に自信がつくことはないのです。だからここでは常に、このケアの取り組みをするということは70%の改善をもって卒業としており、残りの30%はこれからの人生で積み上げていくことだと伝えています。ですから、病的症状を引き起こしたこれまでのいろいろな癖を認識し、「なぜこのような状態になったのか」に気がつくことがこの取り組みの目的なのです。そのことがわかった上で、それをどのように改善し、次の新たな旅立ちにつなげていくのかについては、実際に新たな環境に踏み出してから自分で取り組んでいくことなのです。そうでなければ、仮にここで生活をすることでどんなに自信をつけても、それはここの環境やサポーターたちの力によって成ったことであり、本当の自分の実力にはならないのです。
本当の自分の実力というのは、自分の正直な心を出して、その上で返ってきたいろいろな出来事を通し、それをどのように捉え、どのように前向きに進んでいくのかにかかっています。そのときに、本当の実力が出来、社会をたくましく生きていく力になります。これは、ここで決めていることなのではなく、実際に、生きるということはそういうことなのです。誰も、明日の自らの人生を読み解くことは出来ません。明日に出会うことは、今日までに出会ってきた延長にあるとは限らないのです。それが、人生というものです。

そのために、自らの予想を超えた想像の出来ないことが起きたとき、その出来事は新たなことに対する抵抗力を与えてくれていると思えば、とてもありがたいことなのです。なぜなら、それは自分を育ててもらっていることになるからです。そのように物事を前向きに捉えたら、「あれはダメだった」「これはこういう理由でダメなのだ」という言い訳は必要なくなります。そして、どんなに難しいと思われる出来事が起きたとしても、超えられないことは何ひとつありません。そこを一つ一つ取り組んでいくことによって、自分の力が身につき、生きる希望になるのです。それが、この自然療法の取り組みに対する考え方です。

そのことを受けて、「自分では信じられない。出来ない」と思ったとしても、それは今までやり方が不器用だったから出来なかったのですが、それが出来るようになれば、必ず誰でもその人流の良い人生を歩むことが出来るのです。今、「その人流」という言葉を使ったのは、これまでたくさんの人を支援してきましたが、同じ人はいませんでした。そして、新たな人を受け入れるたびに、新たな事例を情報として私たちはもらいながら、何度もこの卒業の機会に出会うたびに、ますますこの大切な取り組みを続けていかなければいけないと感じています。

今、この会場には最近このプログラムの卒業をした人たちが9人います。その人たちは現在、長期滞在をしていたり、ケアを卒業した後もいろいろな形でここに滞在しています。さらに昔の事例を入れたら、10人以上の人たちが今ここにいることになります。ですから、世の中で本当に行き詰まっている人たちに対して、これからますます貢献していかなければいけないと思っています。しかしそれは、ここに人をたくさん集めることが目的ではありません。世の中がそういった行き詰まっている人たちをたくさん産んできたということは、世の中にも原因があるのです。そして、本人たちも生き方が下手で、このような状態になっているわけですから、その人たちの力となって、健全に生きていくことを支えていきたいと思っています。その仕組みのカラクリを世の中に伝えていくことによって、世の中を良くしていく――、それがこの自然療法プログラムにおいて最も重要なことです。

今日は、とても希望が湧いています。そして、初めてのケースですが、ようこちゃんがAくんのお父さんからの、一部お母さんからのものもありましたが、こちらのケア報告に対する返信を発表してくれました。今回はAくんの変化に対する描写がご両親の表現からとてもよく観えて、逆に良いフィードバックをいただいたように思っています。ご両親は遠くに住んでいらっしゃいますから、Aくんの滞在中に一度もこちらに来られなかったのですが、出来れば、これを何らかの形で世の中に還元し、このような解決のつかない、迷路にはまっている人たちの何か解決のきっかけになればと願っています。

最後に。Aくんに僕から伝えたいことは、よく振り返ってみて、あなたは本当に病気だったのかどうかということをもう一度考えてもらいたい、ということです。医者へ行けば、きっとこれを病気と呼ぶでしょう。しかし、ここの見解では、あなたは病気ではなく、心の持ち方が少しマイナスだったということです。そして、その原因を捉えるのに、出来ない理由探しをたくさんして、そこを自己主張してきたということです。Aくんに良いところがあるのは、「これは僕のせいではなく、人のせいだ」と主張するところはしっかりと安定感があったということです(みんな、笑)。先程発表されたケア物語でも触れていましたが、ケア開始から6週間が経っても、まだ基本的なことを伝えられ続けていたということは、みんなは笑いますが、Aくんは安定感があるということです。その安定感を前向きにして、今度は変化していく自分にその安定感を活かしたら、あなたもきっと希望を持てる人生を歩めると思うのです。

今回この取り組みの途中では、「改善は無理かな」と思って、滞在拒否のカードまで出しました。これはなかなか珍しいことなのですが、だからこれは難しいケースでもあったということです。お父さんもメールの中でそう言っていました。それは、家族としても長年、手に負えない状態だったということなのですが、その大変な状況の中であなたが変わっていくということは、大変な負荷をかけた分だけ、まわりの人たちが喜ぶのです。通常僕は、「あなたの取り組みがならないことは、あなたのせいですから、僕は情報をもらっているだけで関係ありません」とシビアに対応していますが、今回は改善の兆しが観えたときに、さすがに喜びました。Aくんのサポーターだったなかのんも変態ですが(笑)、さすがに途中ではうっときていたようで、今日このように卒業を迎えられたことは本当に良かった、となかのんも感じている雰囲気がありました。

ですから、前向きに生きるとき、「まわりに自分のことを想ってくれている人がいる」という財産をしっかりと理解したら、まわりの人たちがあなたのためにあなたの改善をとても喜んでくれるのです。これは、財産です。あなたがどんなに苦しんでいても、改善しようがどうしようが、喜ぶ人がまわりにいなかったら、不幸です。そういった意味では、自分が生きていることに対して、共に困難や改善を一喜一憂してくれる人がいるという財産があることは、本当に評価していいことです。ただ、あなたにとって大切な財産である人たちを悲しませたり、あきれられてしまっては、何も活かせません。出来れば、お互いに出会ったことを共に喜べるような関係を築いていきたいものです。

Aくんにとっては苦しかった時代が長かったかもしれませんが、Aくんはまだ17歳です。このことを通して、「このような財産があったのだ!」とお互いに気がついたら、これから新たな関係を築いていけることでしょう。ですから、ご両親のことを再評価することが大切です。それと同じように、学校での出会いも未知なるものです。先程Aくんは、「学校にずっと行けるかはわからない」「まだ行こうという感じではない」と言っていましたが、そんなことは考えなくていいのです。

まず一歩前に進むこと――。そうすると、今自分が考えていることとは違う景色が観えてくるのです。それも、まだ行っていない、観てもいない景色を見て、結論を出しすぎるのです。それが余計なことです。そうかもしれないし、そうでないかもしれないのですから、まずは行ってみて、そこで答えを出すことです。そのときに、何でも悪く考えるのではなく、少しでも前向きに捉えることが大切です。「自分を鍛えてくれているな」というように、少しでも前向きに捉えられたら、今までのような「やっぱり嫌だ」という結論にはなりません。自分がどう生きるかが、自分の人生の価値をつけるのです。そして、自分の人生をどう生きるかは、人生の終わりに自分が納得して、人生の旅を終われるかどうかという重要なことにつながるのです。その間に関わる人たちに自分が喜びや希望を提供できる人であるかどうかは、とても重要なことです。

ですから、毎日を大切に生きてください。

僕もこうやってたくさんの事例をいただきながら、そのたびにこれを生きていることの充実を感じています。最近は難しい事例が多いですから、通常は1ヶ月から3ヶ月で改善する見通しのある人たちを預かっているのですが、最近の事例では半年滞在していた人もいます。先程なかのんも、「Aくんはここにいる意味があるのかな?と途中では思った」とコメントしていましたが、僕にはわずかな光があれば、何とかそれを目的地まで持って行きたいという想いがあります。そのためには、本人がその気にならなければダメですね。特にこれからは、ここを卒業して自分で歩んでいくのですから、そのことを忘れてしまったら、やはりダメになってしまうと思うのです。そのために、明日から約3週間、お父さんが迎えに来るまでの猶予期間がありますので、おさらいをしていってください。おさらいというのは、先程「信じる心」という歌が歌われましたが、わからないけれど信じていく、そして余計なことは先に考えないということです。それは無駄なエネルギーです。それを前向きというのです。前向きといっても、先に考えて見当違いに生きたら、これほど無駄なことはありません。そういう心の余裕と、安定した精神状態を持ってもらえたらと思います。

Aくんが家へ戻っても、私たちはここでこの生活をしながら応援しています。ということで、今回はとても良い事例をいただいたと思っています。まずは卒業おめでとうございます。そして、良い出会いをありがとうございます。

 

♪信じる心

わからないけれど 生きている
信じる力で 生きている

わからないけれど 生きている
信じる心で 生きている

みんなで共に生きていることの
この貴さを知らせよう

ひとりだと思い込んで
生きている魂たちよ
みんなでつながっていることを
思い出そう

わからないけれど 生きている
信じる力で 生きている

わからないけれど 生きている
信じる心で 生きている

砂に埋もれた 希望の星を
今、みんなで掘り起こして

空では星が歌っている
つながっていると歌っている

わからないけれど 生きている
信じる力で 生きている

わからないけれど 生きている
信じる心で 生きている

 

 


食のプレゼンを聞いて 〜 15歳のハンくんの感想

ハンくんは、15歳の中国人の少年です。昨年、叔母さんと従姉妹と一緒に初めて木の花ファミリーを訪れ、「ここがとても好きになりました」というハンくんは、今回何と9歳から14歳までの12人の子どもたちを連れたツアーを自らコーディネートし、再び木の花ファミリーにやって来ました。もともと日本語が少し話せたハンくんですが、昨年中国に戻ってからも独学で勉強を続け、前回よりもたくさん話せるようになり、毎晩の大人ミーティングにも参加して大人たちの話にじっと耳を傾けています。

そして昨日、中国の子どもたちに向けて、ジイジによる食のプレゼンテーションがありました。

ジイジによる、食についてのプレゼンテーション

*食のプレゼンテーションの全スライドを、「1ヶ月間の真学校」ブログでご紹介しています。

ハンくんが書いてくれた感想

話を聞いて「勉強になりました。本当に。」とハンくん。以下、ハンくんが日本語で書いてくれたプレゼンテーションの感想をご紹介します。辞書を使いながら、時間をかけて丁寧に書いてくれたハンくんの思いが伝わるよう、原文をほぼそのまま掲載しています。どうぞご覧ください。

 

けさ ジイジの食のプレゼンを聞いた感想

食はとても重要で、人間の生活にとって、なくてはならないものです。しかし、みんなはそれを無視して、自分と世界にとって悪い食事を毎日とっています。

前も食についてすこし知りましたが、今回はこれについてビックリしました。私にとって一番印象をもっているのは 食の無駄です。

中国人は日本人について言うと、もし「日本人の良い点は何ですか」と聞いたなら、「マナーとか、職人かたぎとか、そしてご飯は食べ残しが無い」って、中国人でも知っているのです。今回のプレゼンで、日本人も沢山食品を捨てていることを、本当に思わなかったと思います。
でも、細かく思うなら、何かが分かった。それは、日本人は「もし足りなくなったらどうする」と思って、足りすぎる(ほど求める)からです。元は良い思いだが、他の国の人が足りるかを全然思わなかったのです。

この問題の原因は、視点が狭いからです。解消するには、目を、お金から、他人のいのちに変換しなければなりません。

 

子どもミーティングで感想をシェアするハンくん ー 新しい世代が、大切なメッセージを伝えてくれています

 


雑草魂で正社員として働く 〜 リョウタくんの新たな一歩

昨年の9月に自然療法プログラムを卒業し、その後も心の学びを続けるために木の花ファミリーに滞在し続けていたリョウタくん(通称“もちろん”くん)。ヘルパーとして日々農作業に勤しんでいましたが、この度正式に、農事組合法人木の花ファミリーの正社員となることが決まりました。
毎日畑に出てみんなと一緒に汗を流し、ここへ来た当初からは見違えるほど大きく変化した彼が、ある日の大人ミーティングで、木の花ファミリーメンバーに向けて、こんな手紙を読み上げました。

日々 畑でたくましく働くもちろんくん

 

「雑草魂で正社員として働く」

一年前のちょうど今日、2017年6月30日に僕は木の花ファミリーに来ました。木の花ファミリーに来る前の一ヶ月間は動く気力も出ず、ほぼ一日中ベッドの上で寝ていました。体と心が病んでいて、人生に絶望していたからです。

そんな僕が、明日から正社員となります。31歳にして、初めての正社員です。
僕は大学時代、就職活動を10分で放棄しました。高校時代に発症した慢性疲労と対人恐怖症が原因です。
体がだるく、一日続けて8時間起きていることが出来ない自分。人に何か言われるのが恐く、偽った上辺だけの人付き合いに心がひどく消耗してしまう自分。
「そんな自分が、会社に入ってもやっていけるはずがない」
会社の試験や面接以前に、僕は正社員から「足切り」されていました。

その日から、僕は正社員を憎んで生きてきました。同時に、正社員を絶対の評価とする日本の社会も憎んできました。
「誰も自分を見てくれない」「心配してくれない」「置いて行かれてるのに手を差し伸べてくれない」
異常なまでの憎しみ、怒り、落ち込み、悔しさ…邪悪な感情が常に心を破裂させんばかりにうごめいていました。
「正社員には絶対負けたくない」
燃え上がる正社員への対抗意識は、裏を返せば正社員への憧れであり、強烈な渇望だったのです。
しかし、病気を治して見返してやろうと焦れば焦るほど悪循環にはまり、僕はどんどん落ちぶれていきました。

そんな落ちぶれた自分が、一年前の今日、木の花ファミリーの門を叩きました。
そこでこれまでの人生の結末は、すべて自分の蒔いた種だということをいさどんに教えてもらったのです。
弱い自分、アホな自分、幼稚な自分、ひねくれてる自分、性格の悪い自分、面倒くさい自分…いさどんやメンバーを鏡として映し出されるしょうもない自分を認めて受け入れるのはとても苦しく、何度も泣きました。毎日、早くここから逃げ出したいと思っていました。
でも、僕は逃げませんでした。一人ではもう何も出来ないことがわかっていたから。いさどんを始め、木の花のメンバーに支えてもらわなければ一人で立てない弱い自分を、ここで嫌というほど見つめさせてもらったから。
「正社員になれなかったのは社会のせいではなく、自分のせいだったんだ…」
いつの間にか、僕の中にある正社員に対する負の感情は消えていました。

ケア(自然療法プログラム)中にいさどんとやり取りした日記の中で、今でも心に残っている言葉があります。
僕が休まず働くメンバーを見て、
「働いてばかりで、皆何が楽しいのだろう」
と日記に書いたところ、いさどんは、
「さぼってばかりであなたは何が楽しいのですか。働くことは生きることです。食べることに休みがないのと同じです」
と、見事なカウンターパンチを僕の心にめり込ませてくれました。

ケア卒業時のもちろんくんとジイジ(当時はいさどん)

僕は、仕事が大嫌いでした。バイトではいつもサボってばかりいました。お金が目的だったからです。
でも、ここは違います。目的はお金ではありません。己の価値を積み上げることです。だから僕は、作業中に一度もサボったことがありません。サボることが出来ないと言った方が正しいかもしれません。常に全力、100%の力を出すことを惜しまないのです。
今でも、僕の中には怠け癖があります。残念ながら、僕は木の花の皆のような「仕事大好き人間」ではありません。しかし、だからこそ、そうした弱い自分と毎日しっかり向き合い、コントロール出来る真の強さを得られると思っています。

明日から僕の「再スタート」が始まります。新しい挑戦に、とてもワクワクしています。日々意欲を持ち、教えられたことをスポンジのように素直に吸収し、魂を別人のように成長させられるように精進します。
苦しいことも沢山あると思いますが、不安はあまりありません。だって、これだけ頼りになるメンバーが僕の周りに沢山いるのですから。
ハァハァしながら汗をびっしょりかいている自分が好きです。周りを見渡せば、大好きな畑隊を始めとするメンバーがいます。そんな皆と、これからも一緒に働けることに幸せを感じています。苦しんだ15年間の悔しさを正しいエネルギーに変え、雑草のように、踏まれても踏まれてもへこたれないで起き上がる、強くて逞しい人間になります。

じいじ、メンバーの皆、本当に今までありがとうございました。皆の支えがあったから、僕はここまで立ち直れました。
木の花ファミリーに救ってもらった僕の人生です。この恩は、これから一生懸命木の花に貢献することで返していきます。皆に出会えて、本当に良かったです。

木の花ファミリーに来て、ちょうど1年。これが僕の本当の卒業です。これからもご指導よろしくお願いします。

もちろん

 

畑にて、みんなと一緒に

 


この研究は、新たな世界の扉を開けてくれた 〜 イスラエル人留学生・リリアの手紙

イスラエルからやって来て、京都の大学院で環境学を専攻しているリリア。昨年秋に農作業ヘルパーとして1ヶ月間木の花ファミリーに滞在し、今年1月から2月にかけては、大学院の卒業論文の研究のために滞在していました。そして昨夜、2ヶ月間の研究を終えて旅立つリリアのために「いってらっしゃいコンサート」が開かれました。
以下は、そのコンサートの場でリリアが読み上げた手紙です。日本語で書かれた手紙の全文をご紹介します。


お別れの挨拶

木の花ファミリーでのトータルして3ヶ月間の滞在に関して、伝えたいことがたくさんあります。

木の花ファミリーに来た当初の目的は、コミュニティについて研究することでした 。この研究は学問的なものです。ですから、それは学問のルールのもとにあり、大学の制度のもとにあります。この研究はコミュニティにおける具体的な詳細や個人的な物語を含みます。

この研究は学問的な用語で書かれます。つまり、それは事実、正確さ、数字と専門用語が大切だということです。もし私がこの挨拶を自分の言語であるヘブライ語で書くならば、誰も理解しないことでしょう。それが言語の重要さです。その理由のために、学問で理解できるような用語を使ってこの研究を書いています。学問的な人々にこの研究に対して敬意を払ってもらうためには、私はこの妥協を受け入れるしかありません。

卒業論文は白紙に書かれた黒い文字にしか過ぎません。さらに、研究者はこの研究のための単なる媒体にしか過ぎません。つまり、研究にとっては、誰が研究者であるかは重要ではないということです。研究は客観的である必要があります。しかし、私はリリアであり、主観的な存在です。それはとても難しいところです。

それにも関わらず、この研究は私が新たな世界に行くための扉を開けてくれました。人生が予期せぬ新たな方向へつながっていることは面白いことです。もし抵抗せず、道に来るものが何であれいただくのであれば、奇跡が起きる可能性はあります。皆さんと作業をし、語り、笑い、食事をし、インタビューをし、学び、聴き、体験する機会は、奇跡的なことでした。インタビューをしていた多くの機会において、私の目の前にいる人のことを美しいと感じていました。言葉やハグ、微笑むことを通して、何人かのメンバーとは私のこの感情を共有しました。すべてのメンバーとこの感情を共有しませんでしたが、皆さんはこうした私の気持ちを感じてくれていたと思っています。私はこれまで感謝の気持ちを表現してきたかどうかはわかりませんが、今この場で皆さんに感謝を伝えたいと思います。私にはたくさんの見たこと、聞いたこと、感じたこと、思ったこと、理解したこと、また理解しなかったことがありますが、そのすべてに感謝しています。この研究の重要さは存在していますが、3ヶ月間ここで学んだことはもっと大切なことです。

いさどんとの時間の最後に、何度か、私は「愚かであること、そして真実に向き合うよりも何も知らないことのほうがずっと簡単なことです」と伝えました。真実を探究することは疲れることであり、もどかしいことです。神社に鏡があることはその理由のひとつかもしれません。私たち自身を真に見つめることは全能の神様の存在よりもずっと恐ろしいことです。

木の花ファミリーの人々から多くのインスピレーションを受け取りました。妥協することなく真実を探究する勇気を高く評価しますし、それは私にエネルギーと意欲を与えてくれました。陽子のような物語を聞くことから、とても刺激を受けました。

木の花に来る前、私の目標は他者を理解することにより、他者とより良い関係を築くことでした。ですから、Eちゃん(木の花ファミリーにケア滞在をしていたゲスト)のことを上手く読めなかったことで私は自分自身に対してがっかりしました ──── それは、阿吽を実践することを何度も思い出させるものでした。それを忘れると、宇宙はそれを思い出させるものを送ってくれます。それは通るべきプロセスです。

明日、私はここから出て、もっと大きく、そしてもっと意義深い目標を持つことでしょう。それは、真実を明らかにするためです。真実はとらえどころのないものです。それは善悪や枠を超えたものであり、そして真実を掴むことは容易なことではありません。皆さんが自分の物語について語ったり、ミーティングで「シェア」を聞いたり、ブログや他の資料を読んだ時 ──── 、「自分自身について振り返ること」の大切さを認識しました。ここの子どもたちは生まれた時からそれを学んでいます。私が通ってきたすべてのことは、今いる所に私をいざないました。そこには意味が秘められているのです。

この研究を書くことによって、木の花ファミリーの種を蒔いていきます。これがこの研究の大事な部分です。

起きたこと、今起きていること、そしてこれから起きることすべてに対して、心の底から感謝します。

木の花ファミリーに2冊の本をプレゼントしたいと思います。本来、これらの本は子供向けの本ですが、その中にはたくさんの秘められた意味があります。これらの本は与えること、幸せ、広大な宇宙を旅することについて書かれていますので、きっと皆さんも興味があると思います。ぜひ読んでみてください。

最後になりましたが、もう一度皆さんに感謝の気持ちを述べて、この挨拶を締めくくりたいと思います。ありがとうございます。

 

今日の朝、リリアはみんなに見送られて旅立って行きました
いってらっしゃい!

 


人類史上初の「リョウ」の集いにようこそ! ~PART5:リョウくんの卒業コンサート♪~

リョウタくんの卒業コンサートが行われた2日後の夜。今度はリョウくんの卒業コンサートが行われました。その日は台湾から20名のゲストも滞在されており、ウエルカムコンサートとリョウくんの卒業コンサートが合同で行われました。以下、自然療法プログラムコーディネーターのようこがまとめたリョウくんのケア物語と、卒業コンサートでシェアされたリョウくんのケア滞在記&いさどんからのメッセージをご紹介します。

 

「20歳のリョウくんのケア物語」
~星の流れに乗ってスイングバイ~

19歳のリョウくんがお母さんと一緒に初めて木の花ファミリーを訪れたのは、2017年7月1日のことでした。15歳のときに学校の人間関係で行き詰まったことをきっかけに高校を辞めてから体調を崩し、今後の人生について模索中のリョウくん。「精神的な疲れを和らげ、人とのつながりを感じたい」という思いから、いさどんとの面談の場がもたれました。その際、いさどんは次のように伝えました。

「あなたはまだ若いから、『僕は僕のままでいいのだ』と自己主張したい心があります。しかし、自分のやり方で生きていくと、今の延長が続くだけなのです。そこで打つ手がなくなると、人の力を借りようとする心が出てきます。昨日からケア滞在を始めた30歳のリョウタくんは、あなたととても良く似た心の性質をしているのですが、自分自身が今の状況を招いていることがわかってきたのです。19歳のあなたでも、冷静な心で自分の状態を改善していく必要があると思えば、あなたの症状は改善されます。病気は気が病むと書き、心の問題ですからね。結局、病気の種は自分の中から湧いてくるのですから、自分が病的な状態に誘導している性質を持っていることを受け入れたときに、奇跡が起きるのです。ここではいくらでも奇跡が起きます。奇跡が起きないとしたら、それは本人がそう思いたくなくて行動しないからです。行動すれば、必ず奇跡は起きます。あなたがあなた自身を治すのですからね。自分が問題の発信源だと気付けば、素直に勇気を持って自らを否定していくことが大切です。良いところはどんどん伸ばしていき、悪いところは堂々と否定していく――、結局、これは自己否定の道なのです。自分と正しく向き合うことができたら、人は変われます。学べば、すべては良いことにつながるのです。そして筋の通った正しい判断をしていけば、滞りは自ずと消えるのです。そうなれば、病気を治そうとしなくても、自ずと症状は消えていくのです。」

面談の最後にいさどんから、「あなたに現状を改善する意欲があれば、僕は惜しみなくサポートしたい気持ちはあるのですが、今のあなたからは自分流に行動したいという思いが強く感じられます。ですから、もう少し苦労して人の話を聞けるようになってからまた来たらいいですね。しかし、本来は自分を否定してでも、自分にとって大切な話は聞かないといけないのです。ひとつだけ言えることは、僕のほうがあなたのことをよく理解しています。ですから、ここの取り組みに懸ければ、奇跡は起きます。本来、それは当たり前のことなのですよ」と伝えられましたが、リョウくんは「今は人の話は聞けないですね」と答え、面談は終わりました。

ところが翌日になり、リョウくんは2泊で帰る予定を変更し、このままケア滞在をすることを決めたのです。「最初はいさどんのことを怖い人と思ったけれど、何でも見通されているので腹をくくってやる!」と言うリョウくんに対し、いさどんは以下のように伝えました。

「あなたは9月に20歳を迎えます。あなたは今、ちょうど良い節目を迎えています。ですから、このまま帰るよりも、せっかくの流れだからチャレンジしてみようと思ったのは、あなたの決断でもありますが、星の流れに乗るということでもあるのですよ。

あなたはもうじき20歳になるところであり、昨日からケア滞在を始めたリョウタくんは30歳です。30年というのは土星の周期です。太陽系の中でもっともエネルギーの強い星は土星と木星であり、土星は30年で太陽のまわりを1周し、木星は12年で太陽のまわりを1周します。そして、土星の30年の周期が2周しても、木星の12年の周期が5周しても60年になるのです。12×5、30×2のどちらも60になりますから、あなたが生まれたときの土星と木星の位置は60年後にまた同じ位置に戻るのです。面白いことに、木星と土星は約10年ごとに結び(惑星同士が太陽の片側で同一線上にあること)と開き(惑星同士が太陽をはさんで同一線上に並び対話すること)の関係を繰り返していきます。そうして下向きの三角形と上向きの三角形をつくり、60年で六芒星を完成させるのです。生まれてきたことが人生最大の節目で、その間に10年ごとの節目があるとしたならば、20歳のときにこういったことに取り組むということは、星周りからしたらとても良いタイミングなのです。

さらに言えば、あなたが20歳のタイミングで取り組まなければ、次の取り組みのタイミングは10年先になるということでもあるのですよ。それで自分流にあと10年生き、こりごりすれば、リョウタくんのように30歳のときにここにやってくることでしょう。彼は年を重ねた分だけ人格を改善することが難しくなっていますから、あなたは今、この取り組みを始めて良かったですね。」

そうして、まずは日記を書きながら自分を見つめていくことが課題として与えられ、1週間毎にいさどんとの面談の場が設けられました。滞在当初、いさどんは、「リョウくんはめげてしまって、この取り組みを途中で終了させてしまうのではないか」と思いながらリョウくんの様子を観ていましたが、「大勢の人たちの中にいるのが怖い」と言っていたリョウくんがここでの生活に少しずつ慣れていき、まずは1週間過ごすことができました。

2週目のテーマとしては、健康的に生きるための大原則として、自然と共に生きる規則正しい生活リズムを心がけていくことが与えられ、早速リョウくんは日中、農作業に参加することにチャレンジしてみました。規則正しい生活リズムが徐々に身についてきた4週目には、将来安定して自立するために、人に頼りにされるような存在になることが課題となりました。毎回的確な課題を与えてくれるいさどんに対し、リョウくんは「いさどんは今の僕にとって常に必要なことを伝えてくれています!」と嬉しそうに話していました。

そうしてケア滞在の開始から1ヶ月が経過した頃、感情の起伏が激しく不安定だった心が少しずつ前向きになっていき、自らの性質を理解し始めていったリョウくん。そこでいさどんからは、今後の生き方について考えていくことが次のテーマとして与えられました。「今現在、将来の目標はありますか?」と質問されたリョウくんは、「自分は不登校の経験をしたので、不登校の人をサポートしたい気持ちはあります」と答えましたが、それに対しいさどんは次のように伝えました。

「自分が不登校だったから不登校の人を支援したいというのは、本当に不登校の人を支援したい心なのか、それとも過去の自分に対して癒してあげたい心なのかというと、後者の場合が結構あるのです。なぜならそれは、過去に自分が辛かったからその心を埋めたいということが動機だからです。そして、そのような心は、自分をたくましく鍛えることによって消えるものです。それに今、不登校を支援するような立場の人を求めている場所はほとんどありません。ですから、もう少し現実的なことを考えたいですね。」

そうして日中は農作業に出て、人にあてにされるような動きができるように取り組もうとしながらも、自分の心と向き合うことにはなかなか取り組めなかったリョウくん。また、ここでのケア滞在を終了したら、あるNPO法人が運営している学校に行きたいという思いが湧いてきたりと興味があちこちに移り、ここでの取り組みに専念できないリョウくんがいました。

そんなリョウくんに対して6週間面談の冒頭ではいさどんから、「やる気がないのならやめてもいいですよ」と厳しく伝えられる場面がありました。この面談では、このプログラムは改善する意欲のある人に対して健康に生きていってもらうためのサポートを提供するものであること、リョウくんは今の状況に甘えて自分と向き合うことから逃げていること、向き合わないから生き辛い毎日を自ら創っていることが伝えられました。面談の中でいさどんからは、「この取り組みで最も重要なのは本人の改善する意欲です。あなた自身の価値を上げるためには今の姿勢を変えることが大切なのです」と繰り返し伝えられ、面談の最後にはリョウくんにやる気があることが確認されました。しかし、そこに至るまでにはリョウくんが自分の不甲斐なさに対して悔しがり、大きくため息をついたり、拳で自分を叩きながら涙を流す場面もありました。面談後、リョウくんは「いさどんに僕の甘えをビシッと指摘されて、ホッとした」ともらしていました。

その後のリョウくんの日記には、「作業に出ながら自分の心と向き合うことが少しできた」と書いてあったり、これまでの面談音源を聞きなおしながら、自分の心と向き合おうとする意欲が少しずつ観られるようになりました。

しかし、ケア滞在2ヶ月が過ぎた頃には、「不登校の集まりに参加したい」という思いがリョウくんの中に湧き、目の前の課題に集中できなかったり、この取り組みにおける足踏み状態が続いていたため、いさどんからは「同じ課題も続いているのでそろそろ次の段階へ行きたいですね。9月9日はあなたの20歳の誕生日です。それをひとつのケジメとし、リニューアルしてスタートしましょう」と伝えられました。

その後も、「自分を観るということがわからない。面談でいさどんの言っていることが理解できない。日記も何を書いていいかわからない」と途方にくれるリョウくんの姿があり、2ヶ月2週間面談の際には「もうケアはやめます」と発言することもありました。

そうした紆余曲折を経ながらも、「木造建築に関わりたい」という思いから、木の花の建築チームで作業体験をすることになったことをきっかけに、リョウくんの中で自らの特性を活かしたものに出会えたという感覚が芽生えてきたのです。そして、建築現場でまわりからアドバイスをもらいながら、一生懸命作業に参加しているリョウくんの姿が見られるようになり、安定した一日を過ごせるようになってきた時に――、ケア滞在3ヶ月をもって卒業することとなったのでした。

最終面談でいさどんからは、「引き続き、精神的・肉体的体力をつけていくことが大切ですね。あとは、自分自身が新たな領域に行くことの面白さに目覚めるといいのです」と伝えられ、卒業を迎えることとなりました。

新たな領域に行くことの面白さに目覚めるためには、まわりにいる皆の力を借りて、そして3ヶ月という取り組みの節目を迎えて、新たな自分に向かってスイングバイするということです。

「スイングバイ」とは、天体の重力を利用して宇宙探査機の軌道を変更する方法であり、さらに天体の公転運動を利用することで、宇宙探査機を加速させることもできるのです。20歳という人生の大いなる節目に人生の新たなスタート地点に立ったリョウくん。自分自身の囚われから飛び出し、広い世界へと自由に羽ばたいていくリョウくんのことを、これからも皆で応援しています!

 

「リョウくんのケア滞在記」

皆さん、今日は僕のためにお集まりいただき、誠にありがとうございます。3ヶ月のケアの卒業ということで、今からケアを振り返っていきます。

木の花に来る前は、人生に対して漠然と悲観していて、迷い苦しい時間を過ごしていて、生きている意識も薄らいでいる状況だった。何とか現状をどうにかするために自然の中で立て直すところを母に見つけてもらい、木の花という場所にやってきた。ケアを始める決断をする前の日にいさどんと面談をした。する前からある程度ズバズバ言われることは覚悟していたが、それ以上だった。その夜は、その面談の衝撃が強烈でふとんの上で震えて、言われたことを受け入れることへの葛藤が自分の中にあって、かなり気持ちが揺れていた。ケアを始めた時は、帰ってもどうにもならないからやるしかないという気持ちと、この木の花の新しい環境に対して恐怖と不安だらけで体もふらふらして顔も気持ちもうつむいているような状態で始まった。

ケアの初めの頃は、食堂でご飯を食べるのもすごく緊張して、人が大勢いる所に行くのが怖かった。感情の起伏が激しくて、ホールで寝そべってすごく泣いたり、たまに笑ったりを20、30分繰り返し、それがおさまるまでいたこともあった。

そして、面談を毎週受け、日記も毎日書いていた。最初は、いさどんを恐く思っていたが、面談を重ねるごとにやさしく丁寧に愛と思いやりを持って接してくれているのを感じていった。しかも、面談の内容も僕のことを正確に次々と言い当てていて、ここまで正確に見抜けることに驚き、こんな人はほとんどいないだろうなと思った。

しかし、8月のある日に体調不良になってから行動するのが億劫になって、4日近くも休んだことがあった。その時は休みすぎて行動よりも思考が先行して、やる前に判断していて、その週の面談で「やる気がないならやめてもいいよ」と言われ、喝を入れられたことはけっこうインパクトがあって、何十日かその時のショックが残っていた。意識がたたき起こされるような感じで面談中に泣いてしまい、自分は何のために生きているんだという言葉が思わず出てきた。僕の名前の「リョウ」はねじれている性質があるが、それの生かし方があることも分かった。

その面談の次の日は死んだ魚の目をしていたが、自分と向き合うことを涙目になりながらも少しずつしていった。その週は起きる時間も8時半だったのが、5時、6時になっていって、夜は疲れてすぐ寝れるし、良い生活リズムになっていった。死んだ魚の目をした日から何日かは深刻でしんどい気持ちがほとんどだったが、リョウ・リョウ・リョウ面談が面白く、笑って気持ちよく過ごしたことで、張り詰めていた気持ちが和らいだ。

それから、9月の初めにサポーターのしゅうくんが僕の様子や状況を見て、「今のままでいいの?」と投げかけてくれて、それで我に返った。

それから面談では、心のうそつきがあるってことをいさどんに指摘された。それで次の日に日記にできるだけ正直を意識して書いていて、ネガティブな自分が出てきて情けなくて泣いていた時、けいちゃんが部屋にやってきて、僕が「自分と深いところで向き合えていない」と言うと、「そうか。でも、日記も書いているし、面談の音源も聞いているじゃん。だから大丈夫だよ!」」と励ましてもらって、背中をビシッビシッとたたいて励ましてもらい、「お兄ちゃん、ビシッとやるのに逃げなくなったね」と言ってもらったり、けいちゃんの温かさに助けられた。

9月9日の僕の誕生日の時は、僕の為に料理を作ってもらってみんなで僕を祝ってくれたことにとても感動した。こんなに大勢の人に心を込めて祝ってもらうことが少なかったので、嬉し泣きをした。僕はそこで、正直に生きていくことを話した。

その後の面談では、僕の意識がケア中にもかかわらず、山に登ろうなんてそこから逸れているような姿勢ならやめたほうがいいよと言われて、一度は続けていくことを話したが、その後も今はケアでどこかに行く時期ではないのに、まだ山に登りたいと言っている自分にがっかりして、手間も迷惑もかけるから一回は「やめます」と言った。今思えば、手間も迷惑もかけているならなおさら立ち直らないと無駄になって、そっちのほうが大迷惑だと思う。その後、だいたい30、40分、母と話して、よく考えたらやめても先がない話にもかかわらず、やめることの理由を探したりしている情けない自分がいた。そして、母からの「帰っても部屋はないから」という一言と、本当にこのまま帰っても仕方がないし、2ヶ月間やってきたことが無駄になるし、実際やる気はあるのにへそを曲げて一時的な感情で挫折することはしたらいかん、と思い直して、やめる発言を撤回した。

ケアの目安の3ヶ月まで残り3週間だったのもあって、僕は卒業するにしても出来ないにしても、悔いの残らないようにやれるだけやろうという気持ちで日々を過ごした。体はしんどかったけど、毎日作業に出ていると徐々に自信になっている感覚があった。そして、今のままでは全然ダメだという意識も芽生えてきて、どうにかしようともがいていた。そして雨の日に落花生収穫に行くこともあった。

そして9月18日の朝、富士山に龍の形の雲がかかっているのが見えた。その日に転機が訪れた。面談の中で将来をどうするかを話していた時に、僕は木造建築に関わりたいと話した。そうしたらいさどんは粋なことに、ケアの僕を建築チームに混ぜてくれて、経験の場を与えてくれた。

その後は、建築チームとして仕事を割り振ってくれたことをありがたく思って取り組んでいる。最初の一週間はピリピリしてけっこう緊張もしていたが、二週間経った今は張り詰めるような緊張はなく、日々の経験を通して色々なことを学ばせてもらっている。建築チームではやりがいがあるし、貴重な時間を送れている。意識も心も前向きになってきている。長期滞在になってもこの調子でいきたいと思います。

最後に、サポーターのしゅうくんは、熱心に僕の事を見てくれていて、時には話を冷静に聞いてくれて、僕が自分の都合優先になっていた時には不調和になっていると教えてくれたこと、3ヶ月間ずっと見守り続けて真剣に僕のことを思ってくれていたことに感謝します。

そして、いさどんには聞き分けが悪くて、とても手こずらせたが、それでもいさどんが僕のためを思って熱心に丁寧に大事なことを伝え続けてくれたこと、建築チームにも入れてくれたこと、そして力強く応援してくれたこと、ありとあらゆることに感謝しています。

あとは、畑隊やメンバーの協力や配慮や日々の出会いのおかげで、卒業の2文字があると思っています。みなさん、愛や思いやりを持って接してくれて本当にありがとうございます。僕はこれからもケアでの経験を生かして建築チームで日々学んで、大人になっていきます。今日をもってケアを卒業します。改めて、今日のような場をいただき、ありがとうございました。

 

「いさどんからのメッセージ」

台湾からお越しの皆さん、今日は皆さんへのウエルカムコンサートでもあるのですが、今日のリョウくんのケアの卒業というのも木の花ファミリーの生活の一部です。ですから、ぜひ、皆さんもこの卒業の場を楽しんでください。

まず、少しだけ木の花ファミリーのあり方についてお話ししたいと思います。私たちは命として今、この地球上に生きています。地球上にはたくさんの命があります。その中で極めて能力が高く、大きな影響力を持つのが、私たち人間です。そして、すべての命がつながり合い互いを生かし合う仕組みの中に、私たち人間も生きているのです。

人間たちはとても豊かな社会を築き、不自由なことは便利にするため、高度なテクノロジーを発展させてきました。そうした中で人間は、自らの高い能力を自分のために使ってきました。自然界では、自然を無視し人間にとって都合の良い世界を展開させてきました。世界の国々の中ではよその国より自国を優先し、地域の中では他人より自分の家族を優先し、そして最終的には自分のために生きるのが人間の特徴なのです。

人間がまだ、これほど文明を発達させていなかった時には、自然から命をいただいて生きていました。実際に今現在、私たちが生きる上で最も大切な太陽の光、大地、水、空気、風といったものはすべていただいて生きています。そういった私たちが生きる上で大切なものに、私たちは一度もお金を払ったことがありませんね(みんな、笑)。そのような中、人間たちはたくさんのものをいただいて生かされていることを忘れてしまったのです。

台湾でも同じだと思うのですが、今、日本では若い人たちが働く意欲を失っています。引きこもっていたり、うつ病になったり、中には自殺する人もいます。そこで僕は、「これから国を支えていく若い人たちがそのような状態でいるのはなぜだろう?」と考えるのです。人間は生き物ですから、本能的に自分に合わないことは嫌だと思うようになっています。現代社会の中で長い間競争し、心がボロボロになっていった時、次世代の人たちは「もうこんなことは嫌だ!」と思うようになったのでしょう。ですから、若い世代の人たちの多くが社会に出たくないと思い、今の社会の価値観を否定するようになったのです。

人には誰でも、その人らしく生き生きと生きる生き方があります。そして、この木の花ファミリーにはどちらかというと、社会に行き詰まった人たちがたくさん訪れます。そのような人たちが「自分が生き生きと、皆のために役に立てる生き方は何だろう?」ということを考えるようになりました。競争して自分に近い者だけを優先し、自分だけが良い思いをするという生き方ではなく、皆で仲良く豊かに生きることができるのだという見本を創り始めたのです。そして、お金に頼らなくても、これほど愛ある世界を表現できるようになったのです。

今まで、世界中でこのような取り組みにたくさんの挑戦がなされてきましたが、一人ひとりのエゴがどうしても邪魔をして、それが持続するのは難しいことでした。これからは、競争し打ち勝って他者の犠牲の上に豊かになるのではなく、自然のようにつながって皆が豊かに生きる社会を創っていきましょう。それが、これからの社会の姿なのです。

一昨日、リョウタくんがケアプログラムを卒業しました。今日は、リョウくんがこのプログラムを卒業します。彼らは競争社会の中で頑張って勝ち抜こうと思いながら生きてきました。しかし、それをすると自分も傷つくのです。そうした中で彼らは木の花ファミリーと出会い、皆と力を合わせて豊かに生きる道を見つけました。今までの社会では彼らは行き詰まりを迎えたかもしれませんが、新しい時代を切り開くという意味では、彼らはこれから世の中をリードする人たちなのです。

自然は私たちに命を与えてくれ、そして豊かな人生を学ばせてくれます。それが私たちの価値となり、人生を終わっていくことができます。自然を犠牲にして人間だけが創る社会は、もはや終焉を迎える時代が来ています。

ここにおいでになるゲストの人たちは、なかなかこのような場に出会うことはできませんが、今日、皆さんはこの場に出会うことができました。皆さんはとてもラッキーだと思うのですが、いかがですか(皆、大拍手)?

木の花ファミリーに集う人々は、自分たちが豊かに暮らそうと思って生きているわけではありません。私たちがこの広大な宇宙の中で奇跡のような地球に生命として肉体を持って生まれてきたことの意味を学ぶために、生きているのです。そして、たくさんの経験をしながら、人としての尊い生き方を極めているのです。それぞれが住む国を素晴らしい国にし、素晴らしい地球にし、そして私たちはそのような価値あるものをこの世界にもたらすことのできる者なのです。これから世界中のいろいろなところで、人々はこのような生き方をするようになるでしょう。

今日は台湾の皆さんと出会いました。そしてリョウくんがケアプログラムを卒業しました。皆さん、ぜひ、私たちと共に良い世の中、良い地球創りをしていきましょう。