2023年6月、1人の香港人男性が自然療法プログラムを卒業しました。
彼の名前はワンホー。当初は3日間の滞在予定のゲストとしてファミリーを訪れた彼は、不思議な「宇宙の流れ」によって自然療法プログラム(通称ケア滞在)を受けることになり、1ヶ月半以上の滞在を経て、人生の新たな扉を開くこととなりました。
香港へ帰る日の朝、成田空港での搭乗直前に、ワンホーがファミリーに送ったメッセージには、以下のように書かれていました。
「この2ヶ月間は、経験においても、感情においても、信じられないほど豊かでした。まるで夢のようですが、夢ではありません。こんなにも美しい夢に出会えるなんて、僕はなんて幸運なんだろう?それが事実なのだから、その夢を広げ、夢は本当に現実になるんだということを、みんなに伝えていこう。」
そんなワンホーの体験記を、皆さんにご紹介します。
以下は、自然療法プログラムの卒業コンサートの場で共有された、ケアサポーター(ケア滞在者には、日常生活をサポートするサポーターが付きます)のけいごくんによるケア記録の抜粋と、ワンホー自身の振り返りです。
*この体験記は、「自分の体験がまた新しい誰かの気付きに繋がればいい」というワンホー本人の了承のもと、掲載をさせて頂きました。
ワンホーのケアレポート
ケアサポーターより
【自然療法プログラムを受けるまでの経緯】
ワンホーが初めて木の花ファミリーを知ったのは、今から約7年前の2016年でした。台湾への旅行中にエコビレッジ会議に参加し、そこで、木の花ファミリーで「1ヶ月間の真学校」を受講した台湾人の文ちゃんが木の花ファミリーについてプレゼンしていたのを聞いたのです。その時に受けた木の花ファミリーの印象はとても強く、いつか自分も訪れてみたいと思ったそうです。
丁度同じころ、故郷の香港で、今彼が住むコミュニティの前身である、持続可能な暮らしの為に活動しているグループに出会いました。彼らは2018年から共に暮らすことを始め、ワンホーもコミュニティの一員としての生活をスタートさせたのでした。
ところが、実際にコミュニティとして共同生活を始めると、メンバー間で様々なトラブルが発生しました。中でもワンホーは、パートナーとの喧嘩も絶えず、自分の正しさを主張して他のメンバーからのアドバイスには耳を傾けないどころか反抗し、どんどん孤独になっていきました。激しい怒りを内面に持ちながら表面的には平静を装い、それでも自らの内に湧き起こるネガティブな感情をコントロールできずに、甘いものを過剰に摂取したり、死にたいと思うことまでありました。
完全に精神的に行き詰りを迎えていたワンホーは、その状態を見た他のメンバーから「休暇を取ってどこかに旅に出たらいい」と勧められましたが、自分が精神的に弱いことを認めたくなかったので「そんなもの必要ない!」と断りました。しかし、その後も苦しさは続き、何かを変化させなければいけないと思った彼は、2023年4月、ついに旅に出ることを決めました。その行き先として選んだのが、かつて「いつか行ってみたい」と思った木の花ファミリーでした。
ファミリーに到着したワンホーは、当初は数日間のゲスト滞在の予定でしたが、とても良く働いて畑や田んぼ作業の大きな助けになったので、すぐにヘルパー滞在に切り替わりました。そしてヘルパーとして2週間滞在している間に、香港での自分の問題をファミリーに共有し、ひょんなことからジイジにも相談することになった彼は、このままヘルパーとして滞在を続けて徐々に学んでいくのか、それとも自然療法プログラムを受けて集中的に自己改善に取り組むのかの選択肢を与えられました。そして一晩考えた彼は、自分の人生の行き詰まりを解決するために、プログラムを受けることに決めました。
【第1週目】
初回面談では、プログラムの「主治医」であるジイジより、このプログラムの目的は、人格を変えることではなくそれを有効に使える術を身につけることであり、それによって自分が健康になることでコミュニティの仲間からも歓迎され、世の中が良くなることに寄与することである、と伝えられました。
また、名前や地球暦から、人格の分析が行われました。ワンホー(19/10二文字陰性、−9)は、思考のキャパシティが大きく受け身である為、自分の理屈を持っているが、それを内に秘めて行動には移さないタイプであること。様々な活動をしているが、それは社会や人の為にやっているというよりも、自分にとって居心地の良い優しい場所を求めていること等が伝えられました。
常に母性や愛を求めるような心があるが、本来、愛とはまず他者に与えること。それによ
って全体の運営に寄与し、結果として自分にとって居心地の良い場所ができるということ。そこはワンホーの課題の一つであることが伝えられました。
また、ワンホーからは、木の花ではファミリーの愛を感じて心が安定した状態でいられるが、香港に帰った後にこの状態を保つことができるだろうか、という先案じの心がシェアされ、それに対して主治医からは以下のようなコメントがありました。
「このプログラムは5月1日という節目の日に始まり、丁度タイミング良く、台湾から日本語の流暢なゲストが来て通訳もできるという、想像を超えた良い流れの中にあることを感じて、楽しみに思っています。結果はやってみないと分からないから、香港に帰った後のことは、その段階にきたら考えましょう。」
そして、過去のよくない思い出や、日々の心の動きを毎日の日記に書くことが、課題として与えられました。
田植えの作業の時に、自分にとって初めての作業でパニックになったこと。自分の植えた稲がちゃんと育たないのではないかと心配する気持ちが湧いてきたこと。キッチンでピザの仕込みをしている時に、他のキッチンスタッフの邪魔になっているのではないかと、思考がグルグルしたこと等を、ワンホーは日記に書きました。また、過去の学校での悪い思い出や、母親との良くない思い出についても振り返りました。
主治医からは以下のようなコメントをもらいました。
「人によってはポジティブに捉えるような出来事も、ネガティブで被害妄想的に受け取ってしまう傾向があります。それは自分の特徴であり、他の人も同じだと捉えてしまっては、改善に向かいません。僕が子供の頃に、自分を変える為にあえて苦手なことに取り組んで克服したように、苦手なことに挑戦し、自分を変えるチャンスと捉えると良いですよ。
(田植えの作業で、上手くやれるか心配でパニックになったということについて)初めての作業で上手くやれないのは当然で、上手くやれるようになる為のチャンスと捉えることができます。過去に出来なかったから今もできないと考える必要はありません。」
「アドバイスとしてはとても簡単なことで、余計なことを考えるのをやめましょうというだけです。いつかあなたがその無駄な思考エネルギーを使わなくなったら、それが自分を超えたということです。」
【第2週目】
第1週目を終えた「1週間面談」では、主治医より、ワンホーは思考キャパが大きいが、まだ思考の整理ができていないこと、優先事項から思考していくことで、大切でないことを思考することが無くなり、元々持っている思考キャパを活かすことができることが伝えられました。
ここに来る以前にコミュニティメンバーの意見を聞くことができず、対立が度々起きていたことについて、まずは自分が問題であるということを認め、性格を改めないと、コミュニティではうまくやれないので、ここでトレーニングする必要があるとも伝えられ、ワンホーは、「自分が間違っていたことに最近は気付いてきた。自分を治す意志があるので、トレーニングしていこうと思う」と話しました。
2週間目のテーマとして、「自分に足りないのはどういう所かを考え、理解する」ことがあげられました 。ところがその直後に、ワンホーは日記の中で「それを人に与える努力をする」と述べており、主治医から以下のように伝えられました。「これからの課題はまず、自分に足りないものは何かを考え、理解すること。それを人に与えられるようになるのはまだ先の話なのに、もうそれを目標にしているということは、実態以上に背伸びをしようとする傾向が現れています。そのように無理をするから、理想と実態の間にギャップが生まれ、矛盾が生じるのです。まずは今の段階でやるべきことを一つずつやっていき、その結果、最終的には人に与えられるようになることが、このプログラム終了時の目標です。」
ある日の日記には、母親から愛されていないと思うようになるきっかけとなった出来事が書かれていました。子どもの頃の家族旅行で、ワンホーは檻の中の猿に引っ張られ、両親に助けられましたが、その時に母親が何度も大声でワンホーを叱りました。本当は慰めて欲しかったというワンホーは、この出来事をきっかけに「自分は母に愛されていない」「父は好きだけど母は嫌い」という思いを持ったとのことでした。それに対し主治医は、以下のようにコメントしました。
「今だからこそ冷静に考えるべきなのは、誰かに叱られるということは、『自分は不当な扱いを受けた』ということと同時に、『そのような扱いをされるに相応しい自分であった』ということを、同等に観ていくことが必要だということです。自分に特化して物を考えるのではなく、自分が受けた印象と、相手の立場から見た視点、さらには、もっと広い視野から見た視点を、同等に捉えて物事を見ることが大切です。それによって、偏った感情はなくなっていきます。同じような出来事が繰り返されるとしたら、そこには必ず、共通したあなた自身の傾向があります。繰り返し起きることから学び、訓練をしていきましょう。」
別の日の日記には、中学生の時の初デートを母親に台無しにされた経験が書かれていました。ワンホーの中では、その出来事が、母親に対する怒りや恥ずかしかった記憶として残っていましたが、主治医からは、その件について以下のようなコメントがありました。
「僕があなたの立場だったら、まず母親に対しては、母親の立場を理解して対応します。それでも母親が理解を示さなければ、それは無視して、彼女との恋愛を進めていくことに希望を見出すでしょう。そして、その彼女との思い出は、今も良い思い出として僕の中に残っていることでしょう。そこに、母親に対する怒りは何も残りません。そのように、物事はその都度学んでポジティブに卒業していけば、人生全体が薔薇色でとても良いものになります。あなたは、なんてもったいないことをするのか。僕だったらもっといい思い出にしますよ。そして次の世代の人たちに話して聞かせてあげます。恋愛はこうやってするんだよ、と。」
このような主治医とのやり取りを通して、徐々に自分の思考の癖や客観的な見方を学び、両親に対する捉え方も修正されていったワンホーは、日々の作業でも余計な思考を廻すのではなく、どうしたら全体がスムーズに流れるかを意識して取り組むようになっていきました。
【第3週目】
プログラム14日目。香港のコミュニティに自分がいないことで他のメンバーに負担がかかっているから、そろそろ帰らないといけない、という考えがワンホー湧いてきたタイミングで、「2週間面談」が行われました。主治医からは以下の様に話されました。
「香港のコミュニティで自分が必要とされているから早く帰るべきと思うという話があったが、話を聞くと、本当に帰る必要があるのか明快なやり取りがされていない事が分かり、それでは相手側の状況とあなたの話が違っている可能性があります。そのような通りの悪いコミュニケーションが問題事の原因にもなっていると言えます。」
「香港のコミュニティメンバーから、あなたは精神的に落ち着いてきたからそろそろ帰って来たらどうかと伝えられたようですが、本質的には、あなたはまだ変わってはいません。今は木の花の空気の中にいるから落ち着いた状態でいられるものの、本質が変わっていない状態で香港に帰ると、また元に戻ってしまうことが予想されます。最も効率的で良い方法は、あなたがしっかり変化した状態で帰ることです。そうすれば、コミュニティのメンバーやパートナーとの関係も、過去のトラウマも、そして日々起こる様々な出来事の解決にもつながります。」
「その為には、思考を廻すのではなく、直観力が必要です。そして古い自分を覚悟をもって切り捨てることによって、新しい自分に出会うことができます。それはあなたにとって苦手なことでもありますが、大切なのは、あなた自身がどうしたいかという意志なのです。」
同時に、自分のことを知ることは徐々にできてきたが、自分の執着(心のクセ)を手放すことがまだできていないこと、そして、しばしば母親に対するネガティブな思い出に本人が言及することから、その状態の自分をまだ卒業できていないことが伝えられました。そして「清水寺から飛び降りる」覚悟をもって、思い切って自分を壊していく(手放していく)ことが大事だという話があり、3週間目以降の課題として、より真剣に自分と向き合っていくことがあげられました。
次の日の日記でワンホーは、面談で伝えられた自分の性質を振り返り、自分の言葉で再分析しました。主治医からは以下のコメントがありました。「今日の日記からは、自分の正確な位置を素直に受け取り、表現しているということが感じられます。やはり物事は、『正直』『素直』『信じる』を実践することで、流れがよくなり、正しい捉え方ができるようになります。そういった素直なものを今日の日記から感じることができたということは、あなたが一歩前に進んだということかな、と思います。」
また、ワンホーは、ちょうど時を同じくして木の花ファミリーに滞在していた糖尿病のゲストと自分の父親を重ねて見ていることがあり、それについて主治医から以下のように伝えられました。
「それは父親への執着とも言えます。そのような心があると、正しくものを観ることができません。より広くて客観的な視点を身につける必要がありますが、精神的濁りを取り除いていくと、自然とその意識が湧いてきます。」
その後、ワンホーはその言葉を心に留めるように生活し、より客観的な考え方を自分に取り入れるよう日々意識をしていました。そして前向きに生活を送ることを続け、日記の内容からも、自分の振り返りと決意が力強く書かれるようになりました。3週間面談の前日に、主治医からは以下のようなコメントがありました。
「日記の内容に逞しさを感じます。あとは、それがどれほど定着しているかという確認が必要ですが、それは日々の生活の中に結果として表れていくものです。そのためには、ここに今しばらく居て学ぶも良し、香港に帰り、それがどれほど定着しているか確認するも良し。どうするかは、あなたの意思に任せます。考えてみてください。」
【第4週目】
5月22日の「3週間面談」にて、主治医より「最近、日記の精度が上がってきました。それが、日常に反映されていくことが重要です。また、他者からの評価よりも自分自身の心をいつも確認できることが大切です」と伝えられました。
本人より、6月2日にここを出発するというプランが出され、主治医からは「オッケー!5月1日という節目の日にこのプログラムが始まり、1か月間の区切りでそれを終えて新たなスタートを切るというのは、良い流れと言えます」と返事があり、5月いっぱいで自然療法プログラムを卒業し、香港に帰ることが決まりました。そして、「残りの滞在期間は、もう一度今まで学んだことを確認し、確かなものにして旅立ってください」と伝えられました。
ワンホーは、香港のコミュニティメンバー達にもプログラムの進捗状況を報告し続けていました。日に日に変化していくワンホーからの報告を受けて、香港のメンバー達にもまた変化があり、当初の悪化していた関係性に改善が見られ、ワンホーからは、今後も香港のメンバーを木の花に滞在させるなど、コミュニティ同士の交流を続けていきたい旨が話されました。主治医からは、社会を良くしようとする人たちは皆仲間であるという話があり、今後も交流を図っていくことが確認されました。そして「卒業&いってらっしゃいコンサート」を6月1日に行うことが決まりました。
その後もワンホーは、畑、お茶刈り、パン作り、五平味噌作り、そして養蜂等、様々な作業に意欲的に取り組みました。かつては疲れやすかったそうですが、今は自分でも驚く程にエネルギーが湧いてくるようになったと言います。
ある日の日記には、同じ時期にヘルパーとしてここに滞在し兄弟のように仲良くなったTくんと、人間が生きることの意味を探究する重要なトピックについて長い時間二人で話したということが書かれており、主治医から以下のコメントをもらいました。
「今日の日記の中で語られていることは、本当は二人だけで語り合うにはもったいないことです。そういったことを、外に向けてオープンにして、人々や世の中の精神的発展につなげていくことが大切です。あなた方は、せっかくそのような段階に到達したのならば、それを世の中のために活かすことを最優先にして生きることを勧めます。気が合うがゆえに、二人の中だけで物事を完結させてしまう傾向があり、自分の中の満足に浸る傾向が、どちらにも見られるということです。そこを越えていく必要があります。」
次の日の日記でワンホーは、大切な話の内容を二人に留めるのではなく、社会の為に活かしていく意志があることを書き、主治医からは以下のコメントがありました。「日記の文面から、あなたの明解なる意志を感じます。精神にスイッチが入り、自分の中から湧き出す状態になって来たなと感じ取れます。」
その直後、早速、社会の為に活かす場面が訪れます。
木の花へ中国からの訪問者が相次いで訪れることになり、日本語と中国語の通訳を担当する予定だった台湾人のゲストが体調不良になったことで、急きょファミリーメンバーが日本語と英語、そしてワンホーが英語と中国語の通訳をするという、ダブル通訳の役割を担うこととなりました。
まず初めに5人の中国人グループが訪れ、木の花ファミリーの暮らしにとても共鳴していたので、より深い話をするためにジイジと座談会をすることになりました。しかしこのグループは、その暮らしの背後にある広い世界観を受け入れる準備がまだできていなかった様子で、話題が政治的な内容に触れた途端に不安を感じ始め、座談会を途中で切り上げることになりました。
その場に通訳として参加していたワンホーは、彼らの意識を開放的にすることは難しいと感じました。そして翌日、養蜂の作業でジイジと一緒になった際に、「新しい時代の課題の 1 つは、おそらく昨晩のようなゲストにどのように対処し、そういった人々をどうやって正しい道に導くかだろう」と語りました。ジイジからは「一番大切なのは、まずコミュニティの中で調和のとれた生活を送り、他の人の参考になる生き方の模範を示すこと。そうすれば、適切な人材やものが自然と引き寄せられてきます」という話がありました。
その日の大人ミーティングで、ジイジは以下のように語りました。「このプログラムを通して、ワンホーが目覚め始めています。明日もまた別の中国人グループがやって来ますが、そこには何か大きな流れがあることが感じられます。ワンホーと兄弟のようだったTくんも、再びここに戻って来て自然療法プログラムを受けることを決めましたが、それはワンホーの変化の過程を見てきたからです。ワンホーは、人がこのように変われるという良い見本になっています。」
翌日、新たな中国人グループが訪れ、ワンホーは再び通訳を担うことになりました。このグループはファミリーの世界観に強い関心と探究心を示し、ワンホーはジイジと彼らとの対談で非常に重要な話題を通訳することになりました。そんなワンホーの様子を見て、ジイジは言いました。「滞在の最後の仕上げとして、ワンホーの自覚が育てられている。」
こうして、ワンホーは丁度1か月という期間で、自然療法プログラムを卒業することになりました。人生の中で間違いなく最大のターニングポイントとなったこの滞在は、個人の改善という枠を超えて、これからの世の中の為に大切な1か月となりました。
これから、香港のコミュニティで、ここで学んだことを活かし、広く世の中の為に生きていく意志を持って、ワンホーは木の花ファミリーを旅立ちます。これからもこの心を広げる仲間として、コミュニティ同士で交流したり、共に歩んでいけることを心から楽しみにしています。
ワンホー、卒業おめでとうございます!
その後、ワンホーは以下の手紙を読み上げました。
卒業に寄せて
「この星の上で」という曲は、僕の過去から現在までの人生と、これから向かっていくべき道を示してくれています。
木の花ファミリーに来る以前の僕は、混乱と絶望と現実逃避でいっぱいで、常に愛を求め、自分の居場所を探し続けていました。ここへ来て、人生の大切な扉を開けた気がします。自分自身の無知、妄想、悩み、苦しみ、そしてトラウマの全てが、この旅に出る引き金となりました。その答えを求めて、僕はここへ辿り着いたのです。
当初は3日間の体験のつもりでした。ところが、不思議な宇宙の流れによって、最終的には1ヶ月半の滞在となりました。ここでこんなにもたくさんの愛と力を与えられるとは、思いもしませんでした。僕は、自分の思考パターンに問題があることを知っています。最初は、ここのメンバー達の迷惑になるのではないかと心配していました。せめて一生懸命働いて、少しでもみんなの役に立とうと思っていました。
興味深いのは、ここのメンバーが香港のメンバーよりも更に忙しいとは予想していなかったことです。ここの人達と比べると、自分は不十分だと感じます。同時に、ここの人達は親切で謙虚で、あらゆる面で僕を気遣ってくれました。僕はここで、自分の家族や友人からよりもさらに大きな温もりを感じました。ここで生まれる生命エネルギーが僕の壁を突き破り、今は、信じられないほど幸運だと感じています。
ジイジとの初めての面談で、ジイジは僕の性格と問題点をすぐに見抜き、僕自身に変わる意思があるかどうかの重要性について話してくれました。そして、たくさんの有益な助言をしてくれました。その後、ジイジは僕に、自然療法プログラムに参加するか、ヘルパーとして滞在しながら徐々に自分を発見して改善していくかの選択肢を与え、僕はどうするか決めるのに1日かかりました。僕は自分が、越えることができないたくさんのエゴの問題を抱え、強すぎる自尊心や被害妄想、自分を正しいと思う心があることを知っていました。そして客観的な視点が欠けていました。自分だけで取り組んでも改善は遅くなりそうなので、この時間を有効に使って自分を変えることを学びたいと思い、自然療法プログラムを受けることを決めました。
この1ヶ月間、僕は毎日日記を書き続け、ジイジがそれにコメントを返してくれました。毎日ジイジと会話しているような気持ちで、少しずつ自分が紐解かれていきました。
日が経つにつれて、変化しようという意志が大きくなっていきます。自分の持てる限りの能力を使って自己分析し、生まれ変わりたいと願うのです。みんなと共にいて、足並みを揃え、意識を合わせたい。そんな望みと意志の力は以前の自分にはなかったものであり、それが自分自身の強さになっていることに、少しずつ気付いていきました。
ここには、僕が学ぶべき側面がたくさんあります。自分自身や他のメンバー達の仕事の状態を観察したり、子どもミーティングや大人ミーティングに参加して様々なメンバーの体験を理解したりすることで、それが気付きになっていることがわかりました。ここを訪れるゲスト達との会話からも大切なメッセージを受け取り、そのタイミングはまさに「遅くもなく早くもない、然るべき時」でした。麗静とアテンとの出会い。与えることをためらわないというテーマを共有してくれたソニア。人類が論ずるに値する多くの話題をもたらしたタロウ。今この瞬間に焦点を当てるビンドゥー。それぞれに異なる中国人のゲスト達 ———— その全てに、僕が学ぶべきものがあります。
一方、時を同じくして、香港のメンバー達も日々変化し続けていることを、電話でのやりとりを通して感じました。自分の中の障害物(不要な思考)を手放していくことで、以前は感じることができなかった彼らから僕への愛や力に、徐々に気付き始めたのです。
僕はここで、全体に貢献することによってもたらされる力を、初めて感じました。それは、互いを信じ、支え合い、貢献し合う場であり、一体感と共通の意識に満ちています。そこでは、すべての行動に意味があると感じられます。
先へ進み、香港に戻ってからも、もう僕の進むべき道が曇ることはありません。ここにいるメンバーの一人ひとりに、自分たちがどれほど素晴らしく大きな影響力を持っているかを知ってもらいたいと、心から思っています。人と人とのつながりがどれほど温かいものになれるのか、魂がどれほど美しくなれるのかを教えてくれる、たくさんの瞬間がありました。僕は善意の力に目覚め、その響きを、皆さん全員にお還ししたい。その共鳴が、僕たちがひとつになることで生まれる力と融合して波紋のように広がり、より多くの生命に影響を与え続けることができますように。
無限なる私たちに、無限なる感謝を。
この振り返りを書きながら、僕は既に、たくさんの涙を流しました。