ひろみちゃんと木の花菌の物語 〜 世界を変えることはできなくても、自分は変えられる

木の花ファミリーでは、EM菌(Effective Microorganisms:有用微生物群)を種菌として独自に培養した「木の花菌」を、農業や日常生活の様々な場面で活用しています。この木の花菌の培養を担当しているのが、畑のエース・ひろみちゃんです。
ベビーフェイスでダンプカーを乗り回し、畑隊随一の仕事師であるひろみちゃんは、今から14年前にメンバーになり、ほどなくしてジイジ(当時はいさどん)から木の花菌の培養を引き継ぎました。木の花菌は、仕込みから三日おきに微生物たちに餌を与え(三三九度)、十日目で完成します。今日は、その十日目に仕上がった木の花菌を絞りながら、ひろみちゃんが語ってくれた話をご紹介します。

絞り機を使って木の花菌を絞るひろみちゃん

—— ひろみちゃんは、どうして木の花に来たの?

学生時代に、花や木の勉強をしていてね。花や木は食べるものではないから、野菜よりもさらにたくさんの薬が使われてたの。公園でも、たくさん薬を使って木を管理してた。それで「何か他にないのかな」って思った。こんなに薬漬けでイヤじゃん、て。その時に、EM菌というものがあることを知ったんだ。
当時は庭とか木に興味を持っていたから、こういうものでいろんなところを管理できるようになったらいいなって思った。それで調べてみて、卒業研究でもEM菌に関わることを取り上げて、ますますこれは大事なものだと思った。でも当時は店舗の設計や庭の施工の仕事をしていて、別に農業をしようとは思ってなかったから、それはそれで仕事に使うとか、お家で生ごみ処理をするとか、そういうことに使ってたよ。

結婚して子供ができて、ちょうどその頃、地域にEMの勉強会のようなものができて、そこに参加するようになったら、そこで「富士山麓でEMを使って有機農業をしてる団体があります」ということを聞いたの。へぇーと思って、どんなところか調べてみると、自給自足をしていると書かれてた。それで、おもしろそう、と思ってね。

木の花に来たばかりのひろみちゃんと、ジイジ

当時子供も生まれて、自給自足とか、自然に沿った生き方とか、健康な食事とかに興味を持ち始めていたところで、「私が見たいものがみんなあるかも」と思って、まあけっこうミーハーな気持ちでここに来たんだよね。当時はみちよちゃんとか、エコビレッジ運動に関わる人たちがどんどんやって来てた頃で、私はそれよりもちょっと先だったけど、彼らと同期。でも私は共同生活がどうとか精神性なんて全く考えてなくて、ただちょっと面白そうだな、とここにやって来たんだ。
そうしたら、ここには木の花菌というものがあった。それで、当時木の花菌を担当していたジイジの助手をすることになって、昔勉強していたEM菌を種菌にして培養する木の花菌に関わるようになったんだ。

木の花菌を絞りながら、ひろみちゃんは当時を振り返りました

—— 実際に来てみてどうだった?

最初は、EMの勉強会のツアーで50人くらいの人と一緒に来て、ご飯食べて見学してコンサートを聴いて帰るというものだったけど、実際に来てみて、「なんかおもしろそう」って思った。それで、当時旦那さんも子供もいたけど、「私ここに滞在したい」っていきなり言い出してね。それで旦那さんを置いて、1歳の娘を連れてここで生活体験をすることにした。その後旦那さんもここに来て、ひと月という時間を木の花で過ごすことになったの。そのひと月の間に、なんかいいな、なんか大事だな、という気持ちを持って、また元の生活に戻ったんだけど、元の生活に戻った時は、別にここに移住しようなんてことは全く考えてなくて、月に1回ぐらいの感じで遊びに行けたらいいなって思ってた。
だけどその後なぜか、とんとん拍子に離婚する話になってね。旦那さんは「あなたが木の花が好きなら、そっちに行ったらいいじゃないか」って言い出して。だけどね、それは本心じゃなかったと思う。だって私がいた方がご飯も作ってもらえるし、可愛い子供もいるしさ。そんなこと本心じゃなかったんだろうけど、旦那さんという人はそんなこと言っちゃって、それで私という人は「じゃあ行く!」と言っちゃって。なんかほんとにトントン拍子にそんな話になった。木の花にひと月滞在したのは、11月から12月にかけてだったかな。その後確か3月くらいに離婚することになって、5月には木の花に移住して、ここに住み始めたね。

—— 住んでみてどうだった?

(少し笑って)自分はね、ここに住めると思ってた。だってこの生き方は大事だ、ここで生きていくんだ、と思ってたから、簡単に住めると思ってた。それで最初はご機嫌で過ごしてたんだけど、そのうちにだんだん自分のエゴというか、ボロがどんどん出てきてね。住んでみて非常に大変だ、という時期が長く続きました。自分のことをいいものだと思ってたからね。みんなから自分の心のクセを伝えてもらっても、「責められてる」って思ったり、そんな非常に性格の悪い人でした。
でも、みんなにたくさん心をかけてもらって、時間をかけてもらって、ようやくみんなが言っていることが、だんだんだんだん、ちょっとずつちょっとずつ、わかってきた。自分がどれだけ大バカものなのか、ということが、ちょっとずつちょっとずつわかってきて、自分は本当にものが見えない人なんだ、ってことが、ここにいたからわかった。自分の実態を知って、さらには世の中のこととかこの世界の仕組みとか、もっと広い世界観を教えてもらって・・・・・ありがたいね。ありがたいというか、奇跡というかね、そんな生き方に出会ったことが「すごい!」って、いつも思ってる。

ここに来なかったら、本当にちっちゃな自分の家庭の枠の中で生きてた。それを思うと本当に「ありえない人生を生きているな」と思う。でもそれが、本当の人の生きる道なんだけどね。ここに来なかったら、きっと気付かなかったろうね。だから大事、というか、当たり前のプロセスの中にいるな、って思う。

—— 辛いと思った時に、何でやめなかったの?

確かその当時の世界の人口が60億人で、ジイジがこう言ったの。「世界を変えることはできなくても、自分は変えられるんだぞ。60億分の1、地球がきれいになるんだぞ」って。それを聞いて、そうか!って思った。
もうひとつはね、その自分の悪いクセは死ぬまで続くんだぞ、って言われて、「そうなんだっΣ(´Д`; )」って思ったの。さらにはね、死んでも魂として残るんだぞ(※)、って言われて、「えーーーっっΣ(`Д´;ノ)ノ」て思って、そうか、じゃあ今やるしかないんだ、って(笑)。逃げられるものなら絶対逃げ出してたと思うけど、どこに行ってもその自分からは逃げられないんだってことがわかって、じゃあここでちゃんと心を磨くことが一番大事なんだって思ってね、ここに居続けた。その時には、世の中を良くしようとかそんな思いはなくてさ、実は。最初はね、世の中を良くしようと思ってここに来たけど、どうやら自分はそんな器のものではないということを知ってからは、もう逃げ出したいーーやだーーって思ったりもしたけど、でもここにいることが大事なんだーー、って、必死でしがみついてた。そんな感じだった。本当に、人の言うことがわからなかったからね。

※人間の一生と魂の仕組みについては、全4回シリーズの「21世紀の死生観」をご覧ください。

—— 木の花菌を仕込む時に何か心がけていることはある?

この世界はもともと美しいものだから、自分が余計なものを入れちゃいけないって思ってる。ただこの世界の仕組みのままにこれが作られれば、必ずきれいなものができる。自分はそのお手伝いをするだけで、できるだけそれそのものの、美しいまんまで仕上がるといいなって思ってる。そこに、自分は無し!

仕込みから十日目の、完成した木の花菌

これができるまでの物語もおもしろくてね。
木の花菌を作り始めたのはジイジで、その時のことをよく語ってくれるんだけど、ジイジは40歳の時にそれまでの仕事をやめて、最初は慣行農法を勉強し始めたんだよね。だけど慣行農法にはいろいろ問題があったから、有機農法に進んで、化学肥料ではなく堆肥を使うようになった。そこからさらに、もっと何か良いものはないだろうかって探していった時に、新聞の片隅に、EM菌を使ってスイカを育てている人の記事を見付けた。それで、そこに出かけて行ったところからジイジとEM菌の出会いが始まるんだけど、そこの家の近くの、何でもない道沿いの川とか、野の草とかが、キラキラして見えたんだって。これから出会うものの何かを感じて、そんなふうに世界がキラキラして見えた。何かが開かれる。そう感じたんだって。
私、そのキラキラして見えたっていうのがすごく印象深かったの。EM菌との出会いは、とても大事なものだったんだと思う。何か大事なことに出会う時に、そんなふうに世界がキラキラして見えるって、すごいよね。

そこでちょっとEM菌をもらってきて、実際に使ってみたところからいろいろ研究が始まるんだけど、とにかくいろいろ試行錯誤して、最終的に今の木の花菌ができた。私がジイジから木の花菌仕込みを引き継いでから、余計なこともいろいろやったけど、それもそぎ落とされて、結局シンプルな形に戻ったなって思う。
今年は、木の花菌を仕込むタンクを新しいものに作り変えた。木の花菌の培養には、30度72時間という温度をかける必要があるから、当初は仕込み用のお風呂場で風呂釜にお湯を張り、その中にタンクを入れて培養してたの。でも3年くらい前に専用のタンクを作ってもらって、タンクの中に加温装置を入れて培養するようになったんだ。だけどそれだとタンクの中全体が均一に温まらなくて、加温装置の周りに焦げたようなものがくっついたりしてね。それでも「せっかく作ってもらったんだから、これでやらなきゃ」と思って続けてたけど、やっぱりうまくいかなかった。

お風呂を使って培養していた初代木の花菌タンク
中に加温装置を入れた2代目木の花菌タンク

それで、もう一度前のやり方に戻そうと思って、お風呂場のやり方を再現しようとしたら、ジイジからクレームがついたの。あの頃はお風呂でやるのがその時できる最良の方法だったからそれを使っていたけど、別にそれがベストなわけじゃないんだぞ、って。お風呂では、タンクの上半分がお湯から出ていたから、温度が均一にならなかった。それで今度はタンク全体がすっぽり入るくらいの大きな容器を探してきて、それにお湯を張り、その中でタンクを温めるようにしたら、すごくうまくいくようになった。液をすくい取るのも、最後に洗うのも、前よりずっとやりやすい。

全体が均一に温まるようになった現在の木の花菌タンク

私はただ昔のお風呂と同じものを作ろうとしていたけど、そうしたらそこに進化は何もなかった。うまくいかなかった前回の装置だって、お風呂でやっていたところから進化させたということで意味があるんだってジイジが言ってた。やっぱりいろいろ考えて、試してみて、ダメだったらまた次のやり方を考えるというシンプルなことなんだよね。状況なんてどんどん変わっていくから。木の花菌は木の花菌で確立されているから、仕込む内容を変えるとかいう余計なことはしなくていいことがわかったけど、物事に対して進化させていくのはすごく大事だと思った。いつまでも同じじゃなくて、常に考えて新しいことをやってみて、結果をもらって、また考えていく。ずっと同じでもいいというものもあるんだろうけれど、今はよいものでも、いつかは賞味期限が来る。だから、何にあたるにしても、常に進化させていく姿勢が絶対に必要だって思う。今は原理原則に沿っていても、明日は違うかもしれない。

いろいろ試行錯誤があったけど、やっぱりこういう技術って、この先ますます必要になってくることだから、世の中により広がっていくようにって意識で関わっていくことが大事だと思ってるよ。

私ね、人間は愚かしいものだって思ってたの。バカなことばっかりしてさ。でも、人間を愚かしいと思いながら、その中に自分が入ってなかった。自分もその中の一員で、同じように環境を汚染したり、地球を汚してるってことはわかってなかった。
ここに来て、人間は愚かなこともするけれど、その智恵をいい方に使っていけば、いい世界を創っていくことができるってことがわかった。自分の心の向け方次第で、世界を変えることができる。それは人間にしか与えられていない能力だよね。
作物にしても、これからきっと環境はどんどん厳しくなるだろうけど、そういう厳しい時代であっても、人間の叡智を使って、いろんな作物がある中でふさわしいものを選んでいったら、うまくいくものは絶対にあって、みんなで健康に幸せに生きていくことはきっとできる。本当に、神様はいつも共にあって、みんな与えてくれていて、こういった厳しい時代でも、私たちが生きていくためのヒントは必ず常に与えられている。だから心をきれいにして、直感でそれを感じ取って、うまく利用していくだけのことだよな、って思う。これから環境がどんどん変化していくから、ますます自然から「いただく」ということをやっていかないと、人間の力で作物を育てるのもだんだん厳しくなる時代がやって来るよ。

—— ひろみちゃんにとって、農業のだいご味って何?

やっぱり土を踏んで、お日様を浴びて、作物に触れて、この世界の仕組みを感じられること。その中に生きてるんだー、って思えること。
私たちはひとつの太陽、ひとつの大地、ひとつの水、ひとつの空気、ひとつの風、ひとつの命・地球のもとに生きています ————— そう、いつも言葉で語られていることが、本当なんだって思える。土に触れているから、それが本当だって、全身で感じられる。

ここに来た時には、よくわからないけどこの生き方が大事なんだって、ただ信じる心でやってきた。でも今、その意味をわかって、確信を持って生きていくことが大事なんだって言われ始めた時から、自分なんかがここにいるのはちょっと信じられないとかそんな気持ちもあったけど、ここからいいものを世界に発信していくんだって意識を持って日々を生きていこう、って思うようになった。本当に、みんなの手を煩わせて、心をかけてもらって、今でもまだいろいろあるけど、本当にちっちゃな自分が、ちょっとずつ周りが観えてきて、人が本来生きる道が今、明快に観えてきてる。だからそこに向かっていくんだって、今は思ってるよ。

 

畑のエースの心磨きの道のりは続く!

 


One thought on “ひろみちゃんと木の花菌の物語 〜 世界を変えることはできなくても、自分は変えられる”

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です