人生最大のカルチャーショックを超えて 〜 あきのちゃんの卒業論文より

様々な反響を呼んだ『ある大学生のインタビュー』でいさどんブログに登場したあきのちゃんより、卒業論文が届きました!

ガーナにて 子供達に勉強を教えるボランティアをするあきのちゃん
ガーナにて 子供達に勉強を教えるボランティアをするあきのちゃん

世界中の様々な国を旅してきて、昨年7月に木の花ファミリーに出会った大学4年生のあきのちゃんは、それまで複数のエコビレッジを対象とすることを考えていた卒業論文のテーマを、木の花ファミリーに絞ることに決めました。以来、はるばる広島から富士宮へ通い、時には涙を流しながら、研究を続けたあきのちゃん。それはちょうど、一部インターネット上に木の花ファミリーに対する批判的な書き込みがあがり、メンバー数名がファミリーを離れて、木の花ファミリー自身も大きな変化を迎えていた時期でもありました。

以下、あきのちゃんの卒業論文『共生のための精神性に関する研究 ― エコビレッジ「木の花ファミリー」の精神性に焦点をあてて』より、第1章「研究の背景と目的」をご紹介します。

メンバーの話し合いを書き取るあきのちゃん
メンバーの話し合いに真剣に聞き入るあきのちゃん

============================================

共生のための精神性に関する研究
―― エコビレッジ「木の花ファミリー」の精神性に焦点をあてて ――

私は日本に生まれ育ち、なんら不自由のない生活を送ってきた。食べるものは毎日充分にあり、住む家もインターネットもあり、好きな服も買うことができ、大学まで教育を受けることができ、海外旅行も自由にすることができた。

しかし、1年間の休学期間も含めたこの5年間の大学生活の中で、その私の暮らしとはかけ離れた、全く違う環境に暮らす人々にも出会ってきた。中国、カンボジア、ベトナム、マレーシア、タイ、ラオス、フィリピン、インド、ウガンダ、ガーナ、トーゴ、ベナン ――― アジアやアフリカのいわゆる第三世界の国々で、教育や医療を受けられない、充分な食料や安全な水を得られない、貧しい暮らしをする人々の生活を目の当たりにした。
一方で、物質的には貧しくても、家族や地域の人たちと助け合い、自分たちでなんとか生きていく力を持った幸せそうな人々にも数多く出逢った。モノやお金があるということが幸せであるというそれまで持っていた固定概念が崩れ、本当の豊かさとは何なのかということを考えさせられるきっかけとなった体験であった。

グローバル化によって、自由に海外に行ったり、インターネットを通じて海外の情報を手に入れたり、海外のモノを安く手に入れたりなど、富める先進国に住む人々にとっては、利益とするものが大きいグローバル資本主義だが、貧富の格差や環境問題、経済危機など深刻な問題の原因にもなっている。私も確かにそのグローバル資本主義による恩恵を享受してきた。しかし、暮らしの中でグローバル資本主義に関わることで、それが引き起こす様々な問題にも無意識のうちに加担していた。

例えば、日本でおなじみの100円ショップの製品は中国や東南アジアの国々から輸入している。上海から急行列車で5時間ほど内陸部に入った場所にある浙江省の義烏という新興商工業都市にはバッグ工場や靴下工場、タオル工場、造花工場など100円ショップに輸出する製品を製造する多くの工場がある。そこで働く人々の多くは農村出身の若い女性で、一日約8〜10時間の労働で、休みは月に二日が一般的である。そして月に約200元〜600元(約3000円〜9000円)の給料を稼いでいる。安い輸入品の裏には、労働力搾取や児童労働などの問題が潜んでいる。100円ショップの製品だけでなく、衣服や食品など日常的に日本で手に入れることができる安い輸入品には、なにかしらの安い理由があるのである。

犠牲になるのは発展途上国の人々だけではない。大量に仕入れられる商品は安いゆえに、消費者は必要ないものも購入し、多くのものをゴミにし、自然環境を破壊している。
食品に関して言えば、日本では年間5600万トンの食糧を輸入しながら、その約3分の1(1800万トン)を捨てている。そして不条理にも、その廃棄物の量は世界の食糧援助の総量の約3倍以上になるのだ。
さらに、日本は海に囲まれた島国であるため、モノを輸出入するためには船や飛行機を使い莫大なエネルギーを消費している。そのエネルギーには、大量の化石燃料が使われており、排出される二酸化炭素は地球温暖化の原因にもなる。温暖化対策の代表的な運動として、ネクタイをはずし、涼しいカジュアルな服装をして、冷房温度を上げる「クールビズ」があるが、冷房温度を摂氏26度から28度に上げ、これを1日実行して節約できる二酸化炭素の量は80グラムという計算がされている。一方、アスパラガス1本をオーストラリアからの輸入のものから北海道産のものに変えて東京で食べるとすると、530グラムの二酸化炭素が節約できるという計算がある。1本のアスパラガスを国産にするだけで、クールビズ7日分の温暖化対策の効果があるのである。輸出入による環境への負荷が非常に大きいということがよく分かる。

発展して経済的に豊かになった日本の中でも、行き過ぎた厳しい競争の中で、不幸になっていく人々がいる。競争による極度のストレスを感じながら多くの人が働いている。失業、引きこもり、ニート、うつ病などの精神病など多くの社会問題がこの日本をも取り巻いている。そしてそうした人生に絶望し、自殺する人の数は年に3万人以上、1日におおよそ100人にものぼるのだ。

こんな暮らしをずっと続けていては、いずれこの世界は立ち行かなくなる。効率的で便利な暮らしや経済的な豊かさを追い求める現代のこの社会に持続不可能性を感じていた。しかし、平和活動をしたり、アフリカ諸国でボランティアをしたりしていても、それが全く意味のないこととは思わないが、根本的な解決にはならないという自分の無力さを感じていた。

そんなとき、2013年7月、私ははじめて静岡県富士宮市にあるエコビレッジ「木の花ファミリー」を訪れ、1週間滞在した。そこで人生で一番大きなカルチャーショックを受けた。これまで世界の遠く離れた異国でも出合ったことのない「異文化」に日本で出合うことになり、その新しい世界を楽しんでいたと同時に、知れば知るほど何が起こっているのか分からなくなり、その理解に苦しみながら涙することも何度となくあった。
うまく理解できないからこそもっと知りたいという想いから、その後再び9月と、11月から12月にかけての合計3度の滞在を経て、そのコミュニティの全体像や精神性を私なりに把握し、そしてそのめまぐるしい変化を目の当たりにしてきた。そしてこれまで国内外、様々な場所で感じてきた様々な問題意識の一番根本にある原因と答えを教えてくれる場所であると感じた。

木の花ファミリーの暮らしは、自然界をモデルとした調和したライフスタイル。メンバーは精神性を高めるため、すべての問題の根源にあるタネを見つめ、そこから学び、日々心を磨いている。
本論文では、木の花ファミリーに起こる出来事や人の心の変化などからその精神性について明らかにし、これから人が地球上で調和して生きるための精神について考察したい。「世間の一歩先ではなく、二歩先を行く生き方」と彼らが言う木の花ファミリーの暮らしは、常識から外れたものとしてときに非難されることもあるが、それも含めた木の花ファミリーの全体像と、関わる人々の心の内側までもできるだけ詳しく紹介したい。
また、この論文はあくまで私が木の花ファミリーに関わった2013年7月から2014年1月に得た情報やその生活の中で感じ取ったことを基に書かれている。その期間でも様々な出来事が起こり、それぞれのメンバーもコミュニティ全体もめまぐるしく変化しており、これからも常に変化をしていくものであると考えられる。また、私が木の花ファミリーで見たことや聞いたことをできるだけ忠実に認識し描写することを心がけているが、誤った情報や私の主観が入っているかもしれないため、それが必ずしも正しいとは限らないという点についてはご了承していただき、木の花ファミリーを見て知っていただきたい。

( 第1章 はじめに ー「研究の背景と目的」より )

============================================

理解できない、でも、だからこそ、それが何であるのか知りたい ―――

その一心で、あきのちゃんは木の花に滞在し、日々の農作業にも参加しながら、大人ミーティングでの話し合いに耳を傾け、メンバーたちへのインタビューを重ね、木の花を離れた元メンバーにも直接会って話を聞きました。「自分に書けるだろうか」 ――― そんな葛藤を抱えながらも、面白いから続けなさいという指導教官の後押しもあり、自分の目で確かめ、心で感じたことを率直に書き上げた論文は、見事なまでに木の花ファミリーの精神性を表していたのでした。
届いた論文は、大人ミーティングの場でみんなにシェアされました。誰からの借り物でもない、あきのちゃん自身の言葉で書かれたその論文は一言一言に力があり、聞きながら涙を流すメンバーもいました。いさどんも、目に涙を浮かべながら言いました。

「木の花ファミリーのことが理解されたから嬉しいんじゃありません。
 木の花ファミリーが大切にしている“心”が理解されたから嬉しいんです。」

メンバー一人ひとりがこの生き方の意味を自らに問うこととなった激動の日々の中で、もっとも大きく変化したのは、人生最大のカルチャーショックを受けながらも、それが何であるのかを柔軟な心で探求し続けたあきのちゃん自身だったかもしれません。

「あとがき」の中であきのちゃんは、心の内を語ってくれたファミリーメンバーたちへの感謝の気持ちと、自分にできる恩返しは心を磨いて調和を生み出していくことだと語り、以下のような言葉で卒論を締めくくりました。

============================================

世界を変えたい、日本を変えたい、地域を変えたい、とたくさんの問題意識を持ちながら、それでもやっぱり大きすぎて、結局自分にできることはほとんど何もないと半ば諦めながら、生きる道を模索している中での木の花ファミリーとの出会いでした。

木の花ファミリーの精神性について知っていくうちに、問題意識が外に向いてばかりで、自分とまっすぐ向き合ったことがなかった自分に気づくことができました。幼い頃から対人恐怖症だった私は、自分で自分を見ないよう目を背けながら、人に心の内を知られないように取り繕いながら、表面的な人付き合いを多くしてきました。しかし、ときに深い付き合いをしようとすると、自らその人間関係を壊してしまうこともありました。答えは自分の中にありました。
どこにいても、何をしていてもいいから、自分の心は自分で綺麗にしていこう。「自分が変われば、世界が変わる」という言葉の意味が、自分の経験とつながることで、じわじわと理解できるようになっていました。

一方で精神性について知ることで、私はときに精神的高慢になり無意識のうちに人を蔑む気持ちを抱いていることにも気づきました。それは精神性について知っただけで、本当はまだまだ自分の心は未熟なままだということでした。やっとスタート地点に立てたところだと思います。

この論文の執筆を終えても、これからもずっと毎日を丁寧に生き、起こりうる様々な現象から学び続け良い人生を生きていきたいと思います。

============================================

1532122_637912556268134_1347083135_n
  
地球の未来を担う世代が、確実に動き始めています。

 


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です